2018年春闘始動!3%の賃上げが難しい理由 安倍首相は優遇税制も入れて後押しするが…

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優遇税制によって実現された法人税率25%はOECD(経済協力開発機構)諸国の平均で、経団連が要求していた水準に当たる。経団連側はこの決定を受け、3%の賃上げを後押しする方針に動いている。榊原定征会長は、3%の賃上げについて「そうした社会的要請があることは意識し、前向きな対応を呼びかけたい」と、踏み込んだ発言をした。

連合は「2018春季生活闘争方針」で、2015年から続く4%(うち定期昇給分2%)の要求水準を継続した。水準引き上げはせず、下請けを含めた中小企業の賃金底上げを後押しするなど格差是正に力を入れていくという。政府や経済界と違って、労働組合は例年どおりの枠組みで動いており、迫力に欠けるようにも見える。

立ちはだかる業種要因と日本型雇用慣行

3%の賃上げは本当に実現するのだろうか。野村証券の美和卓チーフエコノミストは「今後も賃金の上昇率は抑制されるだろう」と語る。

その1つの要因が業種だ。現在人手不足感が強いのは、運輸や飲食サービス業など労働集約的でパート比率の高い業種に当たる。これらの低賃金な業種で賃金が上昇しても、日本全体からみれば影響は限定的だ。逆に給与水準の高い金融業などでは、人員削減の動きも出てきており、全体の上昇圧力はそれほど大きくない可能性がある。

さらに、低賃金の業種では効率化が遅れてきた面があり、賃上げよりも設備投資を優先する可能性が高いという。

2つ目は日本独特の雇用慣行だ。日本は年功序列の賃金体系を取っている。経験や人的能力に比例して賃金が上がる構造のため、若いうちの賃金は安い。

厚生労働省が発表した賃金構造基本統計調査において、大卒初任給が過去最高を更新していることからも確認できるように、現在不足感が強いのは若年層だ。そのため、先の業界要因と同様に、賃金の安い若年層の賃金が上昇しても日本全体への影響は大きくない。

賃金が高く、人数も多い中高年を含めてベースアップ(ベア、賃金表自体の底上げ)を行うのは企業にとってコスト負担が大きく、経営者も回避しがちだ。先行き不安が強い中、労働組合もベアより安定雇用を優先する傾向が強いため、3%へのハードルはかなり高いだろう。

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