2018年春闘始動!3%の賃上げが難しい理由 安倍首相は優遇税制も入れて後押しするが…

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労働者への分配に対する企業のスタンスを見ても、消極的な状況が続いている。企業が生み出した付加価値は、雇用者報酬、配当、内部留保という3つの形で労働者と株主・会社に配分されるが、この労働者の取り分の比率(労働分配率)が下落し続けている。

要因として頻繁に指摘されるのは、グローバル化やIT化による労働代替だ。グローバル化が拡大するにつれて、新興国の安価な労働力との競争にさらされ、賃金水準は低下してきた。

ITと機械に代替される労働力

IT化の技術による労働代替も進んでいる。ホテルの受付にロボットを設置したり、無人レジの導入が進んだりと、多種多様な業種にIT化の波が押し寄せ、人間の労働に対する相対的価値は低下している。近年はAI(人工知能)の登場により、この傾向がさらに強まっていくと指摘され、実際にAIの活用に重点を置く企業が増えている。

「スーパースター企業」の影響も指摘される。特定企業の市場シェアが拡大して独占や寡占が起きている業界ほど労働分配率は低下しやすい。みずほ証券の末廣徹シニアマーケットエコノミストによると、「日本でも製造業においてスーパースター企業の影響が見られる」という。今後、M&Aなどが加速し、独占や寡占が拡大していけば、労働分配率はさらに低下していきかねない。

企業が配当やROE(自己資本利益率)を向上させる姿勢を強めているのも、労働分配率下落の要因だ。政府が推進するガバナンス(企業統治)改革もあって、ROE重視の経営が一段と求められている。2014年に経済産業省が発表した「伊藤レポート」でもROE8%という水準が提示され、日本企業は株主還元を重視するようになってきている。

日本企業のROEは確かに海外と比較して低水準にあり、今後も引き上げることが求められるが、労働分配率、賃上げといった政策とは矛盾する部分もあり、企業は難しい状況に立たされている。

日本企業を取り巻くこうした環境を踏まえれば、賃上げ3%はかなり厳しい要求だろう。デフレ脱却には賃上げが必須だが、業績好調の日本企業は安倍政権の要請にどこまで答えられるだろうか。

藤原 宏成 東洋経済 記者

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ふじわら ひろなる / Hironaru Fujiwara

1994年生まれ、静岡県浜松市出身。2017年、早稲田大学商学部卒、東洋経済新報社入社。学生時代は、ゼミで金融、サークルで広告を研究。銀行など金融業界を担当。

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