人はなぜ絵を描いてしまうのか。それを探っていく展覧会、「アンリ・ルソーから始まる 素朴派とアウトサイダーズの世界」が世田谷美術館で開かれている。
プロの画家ではなく、誰かに頼まれたわけでもないのに、やむにやまれず絵に熱中する人たちがいる。精神の病を抱える人の中には、目を見張るような独創的な絵を描く人もいる。そういう人たちの作品約140点を、世田谷美術館の所蔵品から紹介する展覧会だ。担当する学芸員の遠藤望さんにお話を伺った。
「美術展というと、普通は名だたる画家の作品が並びますが、今回は美術史からこぼれてしまった人たちの展覧会です。面白いことに、私たちと同じ普通の人の作品が、実は美術史のメインストリームにいる画家たちに大きな影響を与えていたのです」と、遠藤さんは語る。たとえば、「素朴派」と呼ばれ、今では人気の高い画家のアンリ・ルソーもそのひとりだ。
酷評記事をスクラップしたルソー
ルソーはパリ市の税関に22年間勤めた。本格的に絵を始めたのは40歳ごろ。美術学校に通ったことはなく、自己流だった。翌年からアンデパンダン展という無審査の展覧会に出品するが、評価はひどいものだった。
「当時は遠近法、身体の描き方など、アカデミックな絵画の約束事にのっとっていないものは認められませんでした。彼なりに必死になって描いた絵は、子どもの絵のようだと、みんなに大笑いされたんです。それでも彼は、酷評された記事を大事にスクラップブックに張っていました。どんなに批判されても、画家として受けた評価だったからです」
その後、彼の絵はピカソやカンディンスキーに高く評価される。伝統的な絵画を打ち破ろうとしていた彼らにとって、アカデミックな訓練を受けず、まったく別のところから出てきたルソーの絵が新鮮に映った。ピカソは生涯、4点のルソーの作品を手元に置いていたという。展示室ではルソーの油彩画3点、版画作品1点を見ることができる。
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