米国で市民が原発を廃炉に追い込んだ理由 当事者が、カリフォルニア州原発をめぐる攻防を証言

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ヤツコ氏によれば、「米国でも原発の安全性はきわめて脆弱だった」という。福島事故後、NRCはタスクフォースを設置するとともに安全システムの脆弱性を洗い出す作業に着手した。そこでわかったのが、「外的な事故や災害への備えがまったくなかったことだった」とヤツコ氏は語った。ヤツコ氏は小さな地震にさえ備えがなかった原発の実態を、その一例として挙げた。

市民の行動が、原子力政策を変える

ヤツコ氏は福島原発事故を踏まえて、「新しい原子力の安全に関する基準を打ち立てるべき」との決意を固めたが、大胆な規制強化に反対するほかのNRC委員との対立が深まり、委員長の辞任に追い込まれる。12年5月のことだった。

「新しい基準は、福島原発事故の教訓に合致したものでなければならない。いかなる事故であれ、ただの一人であっても避難を強いられる人が出る事態に陥らせてはならないし、原発の敷地外や海が汚染されることになってはならない。日本の悲劇から学ぶ機会を生かして、今までとは異なるエネルギー政策、安全基準を実施していく必要がある」とヤツコ氏は力を込めて語った。

そのうえでヤツコ氏は市民による行動の重要性を強調した。「変化を起こしていくためには、市民が行動しなければならない。市民のみなさんは政治家に働きかける責任を負っている。そしてトーガン・ジョンソンさんが(カリフォルニアの住民運動で)示したのは、まさに変化を起こすのは可能だということだ」(同氏)。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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