台湾新幹線、「たった4編成」国際入札のナゼ 新型N700Sの登場を待てず日本を見限ったか

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こうした状況で突如浮上した国際入札。自然に考えれば、台湾高鉄は手続きの煩雑な国際入札ではなく、オプション契約を持つ川重に発注するのが利にかなう。しかし、「オプションは消滅してしまった」と川重の担当者は話す。

たったの4編成。台湾高鉄がそれを川重への発注から国際入札に切り替えるのはなぜだろう。まず考えられるのは、同社が2015年に「実質国有化」されたことの影響だ。台湾高鉄は新幹線開業の遅れや運賃収入が当初計画を下回ったことから累積赤字が膨らみ、経営破綻の危機に陥っていた。そのため2015年経営再建を図ろうと、政府の出資を受け入れた。国の関与が強まったことから、従来の随意契約ではなく、透明性の高い国際入札が求められているという理屈は筋が通る。

東海道・山陽新幹線の「700系」。台湾新幹線の車両「700T」開発のベースとなった(記者撮影)

「日本メーカーの車両価格が高いので、国際入札に切り替えた」という見方も現地で出ている。台湾高鉄が2012~2015年に川重から調達した4編成の購入価格は66億台湾ドルとされる。当時の為替レートで1編成当たり45億円。東海道新幹線700系は1編成当たり約40億円で、確かに割高感はある。1編成当たりの車両数も700Tが12両、700系が16両で、台湾のほうが少ないことを考えれば、割高感はさらに強まる。

部品が調達できず、車両が造れない

しかし、34編成がすべて日本製の同一車両なのに、追加の4編成だけをわざわざ国際入札で調達すると、車両の仕様が変わって運行管理やメンテナンスを煩雑にするだけだ。現行車両で統一しておくほうが格段に楽だということは誰にでもわかる。そもそも、経営破綻の危機から国有化された台湾高鉄であれば、新型車両を導入することで発生する余計な支出も避けたいはずだ。

そんな中、事情をよく知る関係者が真相を明かしてくれた。「台湾高鉄は700Tを望んでいたが、必要な部品が調達できず700Tが製造できなくなったことが、国際入札に切り替わった理由だ」。

700Tのベースとなった700系は、N700系が登場するまで東海道・山陽新幹線の主力車両として活躍。約90編成が製造されたが、2006年に製造が終了。すでにN700系への置き換えが始まっており、2019年度までに700系は東海道新幹線から姿を消す予定だ。つまり700系自体が古いため、必要な部品がすでに存在しないというのはありうる話だ。そうはいっても、部品が足りないならまた造ればよいのではないかという気もする。だが、「造れない」ということで決着した。

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