台湾新幹線、「たった4編成」国際入札のナゼ 新型N700Sの登場を待てず日本を見限ったか

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実は、造らないほうが得策という理由が日本側にはある。東海道新幹線で700系が新製から十数年で引退していることを考えれば、700Tも2020年代半ばまでに引退時期を迎える。そして、700Tに代わる新たな車両は、JR東海が現在開発中で2020年に営業運転を行う「N700S」をベースに開発されるというのが、最も有力なシナリオである。

JR東海が開発中の次世代新幹線N700Sの模型と車体(撮影:尾形文繁)

新幹線は車両ごとにコンバータや変圧器などの異なる床下機器が搭載されている。そのため東海道新幹線の標準である16両編成の列車から12両編成である台湾新幹線700Tを開発するためには、床下機器の再配置という開発工程が必要だった。

N700Sは床下機器の小型・軽量化により、車両のバリエーションを大幅に削減。16両だけでなく、8両、12両といったさまざまな編成に対応できる(「JR東海・東日本、『新型』新幹線はこう変わる」)。つまり、N700Sをベースにすれば、700Tの開発で必要だった12両編成に対応させる改造工程が不要になり、車両の製造コストを下げられる。

日本側のベストシナリオは4編成を新造せず、現行車両をフル稼働させることで当面は乗り切り、2020年以降にN700Sをベースとした新型車両を一気に受注するというものだ。しかし、台湾高鉄はそんな日本の思惑をくみ取ってくれなかった。

油断禁物、欧州勢が入札参加か

ドイツの誇る高速鉄道「ICE」。車両を開発した業界世界2位のシーメンスは台湾新幹線の国際入札に踏み切るのだろうか(記者撮影)

現在の状況はどうなっているか。台湾高鉄は「各メーカーに意向を確認している段階で、まだ入札開始の予定は立っていない」としている。台湾高鉄の提案を受け独シーメンス、仏アルストム、あるいは中国中車といった世界のメーカーが採算性などの観点から入札すべきかどうか検討を行っているのだろう。日本が入札するとしたら、現行のN700系をベースに開発した車両ということになるだろう。では、その場合、日本に勝ち目はあるのだろうか。

「心配はしていない。おそらく日本勢が選ばれるはず」と、前述の関係者は自信満々だ。欧州の技術は信用されていないからだというのだ。台湾の高速鉄道は、車両など根幹部分は日本製だが、欧州システムが採用されている部分もある。しかしドイツ製の分岐システムでトラブルが多発するなど、現場で欧州製のシステムに手を焼いているのは事実だ。仮に入札不調に終わったら、2020年以降に一気にN700Sベースを導入というベストシナリオが待っている。

しかし、油断は禁物だ。前回、日本製に逆転受注を許した欧州勢にとって、今回の国際入札は雪辱戦である。わずか4編成だけを考えれば、うまみの少ない案件だが、これを落札すれば、将来の700Tの置き換えというビッグプロジェクトで、再び日本から主導権を奪い返す可能性があるからだ。価格が決め手になるのであれば、中国勢参入の可能性もゼロではない。

アジアでは高速鉄道の導入を検討する国が多い。小型案件でも、他国に先駆け新幹線を導入した台湾の動向は、アジア諸国の高速鉄道戦略に大きな影響を与える可能性がある。日本にとっては気の抜けない戦いが続く。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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