知の巨人「ジャック・アタリ」は何が凄いのか 近未来を的確に見通すためにやっていること

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仏エマニュエル・マクロン大統領を政界に導いた人物でもあるジャック・アタリ(写真:Abaca/アフロ)

2030年 ジャック・アタリの未来予測』には、こんな記述がある。

北朝鮮は2020年までに100発の核兵器を保有し、アラスカまで到達可能なミサイルに搭載できる小型の水爆も開発する。そうなれば、アメリカに対して、本格的な核攻撃を開始するかもしれない。

また、北朝鮮が日本に対し核を使用したり、韓国を占領したりした場合はアメリカが参戦し、これを契機に世界大戦が勃発するというシナリオも書かれている。

ネットを駆使して情報を収集

現在の世界情勢をみると、アタリ氏の一連の分析は、実に的を射ていると言わざるをえない。しかも、日本で本書が出版されたのは今年の8月だが、原書が世に出たのは2016年10月。つまり、彼は1年以上前にはるか離れたヨーロッパの地から、朝鮮半島がこうなるであろうということを予測していたのである。なんという慧眼。さすがはフランスの知の第一人者だ。

でも、彼はどうして未来を見通せるのだろうか。そのための何か特別な訓練でも受けてきたのだろうか。

何ということはないのである。要するに彼が行ったのは、ネットを駆使して集められるだけの情報を集め、それを至極まっとうに解釈し、本という形にしてまとめただけなのだ。事実、原書のタイトル『Vivement après-demain!』は、直訳すれば『来るべき明後日』であって、「未来予測」というニュアンスは含まれていない。

ただ、その現状認識はきわめて正確で、そこから論理的に導き出された将来像にも説得力があるので、今後の世界を読み解くのに大いに役立つというわけだ。日本でこの本がヒットしているのも、これはプレゼンテーションのネタ本として使えると、意識の高いビジネスパーソンがこぞって買い求めたからだろう。

一方で、気候変動、保護主義の台頭、富の集中と不均衡の増幅など、人類を破局に導く要因を、エビデンスを挙げて指摘しておきながら、それを回避して明るい未来を手に入れるためにはどうしたらいいかという話になると、途端に「利他的に行動せよ」「あらゆる手段を動員して世界を救うために行動することが大事」など、どこか現実感に欠ける理想主義的な主張になってしまっている感は否めない。

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