報じられない「無頼系独立候補」たちの選挙戦 悪戦苦闘の中に見えてくる選挙制度の問題点

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だが彼は最初からこのような奇抜なパフォーマンスをやっていたわけではない。出馬してもメディアに取り上げられないため、次第にトンがった演出へと傾いていったのだ。一見、自由すぎる政見放送も、実は綿密に練られたシナリオに基づいているという。常に逆風を強いられる泡沫候補ならではの、試行錯誤の中から生まれた戦い方だったのである。

著者が描く泡沫候補たちの悪戦苦闘ぶりからは、さまざまな現行の選挙制度の問題点が見えてくる。代表的なものを挙げると、たとえば供託金制度がそうだ。

普通の人が立候補するにはあまりに高いハードル

選挙には誰でも出ることができる、と世間では思われている。だが現実的にはこれは誤りだ。日本では「供託金」を払わなければ選挙に立候補することはできない仕組みになっている。供託金は当選するか、有効投票総数の一定の割合を超えないと返還してもらえない。

しかもこの供託金の金額がべらぼうに高い。衆議院や参議院の選挙区、都道府県知事選挙は300万円、政令指定都市の首長選挙でも240万円、国政の比例だと600万もかかる。事実上、「貧乏人は選挙に出るな」という制度になっているのだ。

日本で供託金制度が出来たのは1925年のこと。普通選挙法の制定により、立候補者が増えすぎるのを防ぐために高額な前払い金を課したというのがタテマエの理由だが、その裏には、社会主義者などが国政に進出することを阻む目的があったとする説もある。ほとんど意味のない制度がずるずると続いているだけなのだ。ちなみに世界では供託金制度そのものがない国が大半である。

現在の選挙制度は、普通の人が立候補するにはあまりにハードルが高すぎるものになってしまっている。ではそんな選挙制度のもとで、政治はいまどうなっているか。

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時事通信によれば、今年10月に行われた衆議院選挙の当選者のうち、世襲議員は109人で、全当選者の23.4%を占めた。政党別では自民党の90人が最多で、党の31.7%が世襲だという。「家業」として政治家をやっている人間がいまやこれだけいるのである。

生物の世界にとって多様性はとても大切なキーワードだ。著者に導かれて泡沫候補たちの個性的な人生に寄り添ううちに、もしかしたら彼らこそが、政治が本来持っている豊かな可能性を、かろうじて担保してくれている存在なのかもしれないと思えてきた。

日本は民主主義国家である。であるならば、政治は誰にとっても身近で、開かれたものであるべきだ。本書はあなたに、多様な価値観が共存する社会の可能性を考えるきっかけを与えてくれる1冊となるだろう。

首藤 淳哉 HONZ
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