報じられない「無頼系独立候補」たちの選挙戦 悪戦苦闘の中に見えてくる選挙制度の問題点

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「泡沫候補」とは、「立候補しても、とうてい当選の見込みのない候補者」を意味する。候補者に対してはいささか失礼なニュアンスを含んだ言葉かもしれないが、ある新聞社では内々に「特殊候補」という呼び名が使われているという。新聞社の内部文書によれば、「選挙を売名や営利などに利用したり、自己のマニア的欲求を満足させるために数々の選挙に立候補」する候補者などと位置づけているようだ。ここまで来るとかなりの「上から目線」を感じる。

これに対して、大川興業の大川豊総裁は「インディーズ候補」というカッコいい呼称を使っている。メジャーの対義語としてのインディーズというわけだ。著者はこの呼称に共感しながらも、社会の常識に孤立無援で立ち向かっていく候補者たちに敬意を表して、「無頼系独立候補」と呼んでいる。

誰が泡沫候補かを決めているのは…

本稿ではあえて一般に浸透している「泡沫候補」という言葉を使うが、では主要候補だの泡沫候補だのは誰が決めているのかといえば、これはメディアが決めている。ただし各社で打ち合わせて決めているわけではなく、なんとなくの空気というか、横並びの報じられ方でなし崩しに決まっていくのが現実だ。

ところが選挙戦がスタートして、いっせいにメディアが主要候補の報道へと雪崩を打っても、実は選挙戦で何が起きているかはよくわからない。選挙戦の内側を知りたければ、むしろ泡沫候補たちの現場に立ち会わなければならない。

日本でいちばん有名な泡沫候補といえば、なんといってもマック赤坂だろう。彼は1948年、愛知県名古屋市に生まれ、京都大学を出て伊藤忠商事に入社、そこで出合ったレアアースを扱う会社を48歳で起業し、年商50億を超えることもある会社へと育て上げた経営者でもある。

だが彼のパフォーマンスは、こうしたキャリアからは想像もつかないほど奇抜だ。ピンクのコスチュームに身を包み、工事現場で使われる赤い誘導灯を両の手に、金髪の頭にはフェイクファーでできたモフモフした帽子とヘッドセットのマイクを装着して、音楽にあわせ身をくねらせて踊るのである。

彼の政治信条は「スマイル」。「笑うことで幸せになろう」という「スマイルセラピー」を提唱している。マック氏おすすめの「スマイル体操」では、「10度、20度、30度っ!」と言いながら口角を上げていくのだが、街頭で若い女性にウケると、持っていたバナナを股間にあてがい「10度、20度、30度!」とやらかすなど、しばしば予測のつかない動きをするため注意が必要だ。

マック赤坂の名前が一挙に広まったのは、2012年の東京都知事選挙の政見放送がきっかけだった。NHKにスーパーマンの衣装で乗り込んだのだ。この他にも途中で立ち上がって画面からわざと見切れたり、持ち時間を残していなくなってしまったり、これまでの政見放送のフォーマットをぶち壊すような裏技を次々に繰り出してきた。

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