「かつや」運営社がすかいらーくを訴えたワケ 飲食業界でいまだ止まない模倣合戦の本質

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「鳥二郎と鳥貴族の鳥は、『・』と『-』が違うだけで、ほぼ一緒でした。けれども、鳥は同じでも店名が鳥二郎と鳥貴族では『二郎』と『貴族』の文字は異なるので、メニューなどは模倣していても商標権は侵害していないという判断になったようです」(外食企業幹部)

結果的に鳥貴族が鳥二郎を訴えた裁判は裁判長の和解勧告があり「鳥貴族と間違われないような看板デザインにする」ということで、決着した。

一般的に飲食業界において看板の模倣は商標で守られているが、「業態」と「メニュー」の模倣は日本では野放し状態になっている。

オリジナルがどこにあるのか、難しい線引き

まず業態。そもそもオリジナルがどこにあるのか、線引きが極めて難しい。まねした側も次々に改善を加えて、ものまねの痕跡を消そうとする。その結果、外観から見るとどれがオリジナリティなのか見分けがつかなくなってしまうからだ。これが都市の繁華街の飲食店ビルなどで外観が似たり寄ったりの店舖が増える要因だ。

メニューも模倣され放題だ。最近ではSNSの「インスタグラム」が普及した影響もあるようだ。「インスタ映え」「SNS映え」という流行語を生むほど写真や動画のSNS投稿がブームになり、料理メニューなどはつねにアップされている。ある料理畑出身の飲食店経営者は、「インスタで上位にランキングされるメニューを見て、自社のメニュー開発を行っている」という。「インスタ」による写真・動画投稿は、顧客動員の武器にもなるが、一方ではメニューから内装、接客の様子などが流出しまねされることもある。

「珈琲所コメダ珈琲店」を全国に760店以上展開するコメダホールディングス(HD、名古屋市)が、2015年5月に、和歌山市の「ミノスケ」が運営する「マサキ珈琲中島本店」を訴え、勝訴したケースも興味深い。

コメダHDは「店舗の外観や内装、使っているグラスなども酷似している」と、店舗外観などの使用差し止めを求め仮処分を申し立てた。仮処分の争点は、「①コメダ珈琲の店舗の外観が需要者の間で広く認識されているという『周知性』」「②コメダ珈琲店とマサキ珈琲中島本店の『類似性』」「③客などの『混同の恐れの有無』」などであった。

この裁判で画期的であったのが、アメリカで知的財産権の1つであるトレードドレス制度に踏み込んで判断が行われたことだ。たとえばブランドマークに使われている字体、ロゴマークや製品の形状、色彩構成、素材、大きさといった各種要素を含んだ全体的・総合的なイメージのほかに、店舗の内装から外観、店員のユニホームなども含めて、原告側のトレードドレスと混同しないかが追及された。

その結果、2016年12月に東京地裁は不正競争防止法に定める営業表示の一種として認め、マサキ珈琲側に店舗外観の使用差し止めを命ずる仮処分を下した。ちなみにトレードドレス制度は2015年4月改正の商標法で導入が見送られた経緯がある。

勝訴したコメダHDは「コメダ珈琲各店のオーナーやブランドを守るのが大きな目的でした」と発表した。コメダ珈琲は直営に加え、法人、個人のFCオーナーを募集して発展してきた。FC本部として、FCオーナーの利権やブランドを守ることは生命線であった。

実はアークランドサービスHDは、「コメダ珈琲店」のフランチャイズチェーン(FC)に加盟し、2店舗展開している。今回、「からやま」の模倣の件で、「からよし(から好し)」を3店舗運営するすかいらーくを訴えたのは、臼井社長がコメダ珈琲の裁判に触発されたことも大きかったのだろう。筆者はコメダ珈琲がパクリ商法の模倣店に勝訴したことで、パクリ商法の流れが変わったと思っている。

一般的に飲食業界には「TTP」(徹底的にパクる)するという悪しき習慣がある。成功業態をパクればリスクを取らないで成功する確率が高いからだ。しかし、そんな仁義なきパクリ戦争を繰り返していれば、飲食業界は疲弊し、顧客離れを起こしかねない。

中村 芳平 外食ジャーナリスト

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なかむら よしへい / Yoshihei Nakamura

1947年、群馬県生まれ。実家は「地酒の宿 中村屋」。早稲田大学卒。流通業界、編集プロダクション勤務、『週刊サンケイ』の契約記者などを経てフリーに。日刊ゲンダイの「語り部の経営者たち」にレギュラー執筆、ネット媒体「フードスタジアム」に「新・外食ウォーズ」、「ビジネスジャーナル」に「よくわかる外食戦争」などを連載。

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