選挙目当ての減税は愚策 国民は政治家見抜く眼力を--石弘光・放送大学学長

選挙目当ての減税は愚策 国民は政治家見抜く眼力を--石弘光・放送大学学長

--首相の辞任表明から、解散総選挙へ事態が動き出しました。

辞任表明はあまりにも無責任ですよ。政権放棄が2代も続くのは、自民党のひ弱さの現れ、末期的現象です。ただ、自民党総裁選に多数の候補者が名乗りを上げたことは、不幸中の幸いとも言える。(小沢一郎党首以外に立候補者がいない)民主党とは好対照で、今、総選挙をやれば、自民党はある程度盛り返すのではないでしょうか。というのは、政策論争こそ、政党の原点だからです。

--与謝野馨・経済財政相のように、増税を訴える政治家も名乗りを上げました。

与謝野氏は、経済動向にかかわらず、何が何でも増税をやろうと考えているわけではないでしょう。マクロ経済の状況を踏まえて、慎重に対処すると思います。麻生太郎・自民党幹事長のように、「3年間は景気対策」などという姿勢ではなく、マクロ経済を真剣に見極めつつ、財政再建に向けた準備を始めるのではないか。財政出動で何が何でも景気回復だなんていうのは、時代遅れの、オールドケインジアンの発想ですよ。

--経済成長を最重視する「上げ潮派」の小池百合子元防衛相や、財政再建と経済成長重視の中間的立場と目される石原伸晃・元自民党政調会長も出馬を表明しました。

小池氏の主張は構造改革、要するに歳出削減ですよ。それは大いに重要だし進めるべきで、与謝野氏と小池氏、石原氏が連携する余地もあると思いますよ。麻生氏だけが、ほかの対抗馬とかなり違う主張をしている印象がある。麻生氏は当面、財政再建の必要性も言わない。今回の景気後退で、そんなに財政出動をすべきか疑問です。財政出動の効果自体も疑わしい。だから、景気重視派の麻生氏vs.財政再建・構造改革派の論争になるでしょう。

--ただ、「上げ潮派」は増税に対しては否定的です。

上げ潮派も、成長率を高めるだけですべてうまくいくとは言わなくなっているように思います。増税も含めて手順の問題だと。与謝野流も小池流も歳出削減を主としてやり、それだけでは足りないので増税も必要だが要はタイミングだという点で、ある程度の共通の基盤はある。今後の政策論争では、定額減税や証券税制をめぐる濃淡、あるいはバラまき型の景気対策を必要と考えるか、それでは後遺症が大きいと見るかが軸になると見ています。

--自民党総裁選や解散総選挙では地方の動向が注目されますね。

景気が悪くなったからといって、バラまきで一時的にしのいでも、また財政赤字が積み上がるのでは以前と変わりがない。公明党に押されて福田首相の下で打ち出した定額減税が最たるもので、僕は絶対に反対です。というのも橋本、小渕政権と、バブル崩壊後、失われた10年のときに連綿とやった手段がこれだからです。あのときは特別減税という形で時限的にやって、またそれを延ばすという形を続けましたが景気浮揚の効果はほとんどなかったと思う。

なぜかといえば時限で1年とか2年とか言えば、誰も本気で消費に回そうとはしない。終わったときにまた増税になるからです。国民は減税の恩恵を忘れていますから、元に戻す場合の負担感がひとしおになる。だからまた延長という繰り返しになる。

今回の定額減税は、「天下の愚策」といわれた地域振興券を想起させます。税制がああいうバラまきや人気取りに使われるのは、財政学者として非常に心外です。これではいつまで経っても財政健全化はできない。

総選挙が近いから、痛みを伴う改革は嫌だという声がどうしても出てくる。ただ、政策の必要性を判断するうえで問われるのは、国民の眼力ですよ。与謝野氏は地味なイメージもあり、総裁候補としての人気度はあまり高くない。ただ、堂々たる政策論争という言葉は評価していい。ほかの候補者も政策論争を受けて立つべきです。これは福田首相の辞任がもたらした、「予期せぬ効果」かもしれませんね。 

--民主党はどう対抗すべきでしょうか。

2007年の参議院選挙で、民主党は農家への戸別所得補償や高速道路の無料化、子ども手当の創設など、15・3兆円に上る政策を打ち出しました。その一方で、財源捻出は財政の無駄の削減で行うとし、消費税など増税は必要ないとしました。しかし、民主党は無駄のありかをきちんと明らかにしていません。

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