職場で「童貞いじり」する男性たちの深層心理 「性経験の多寡」がなぜ評価軸になりうるのか

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せっかくなのでご紹介しておきますが、性的な経験を自分の能力を証明するための糧としてきた男性の末路は、実に哀れなものです。2010年代に中高年男性を対象にした週刊誌で「死ぬまでセックス」特集が頻繁に組まれましたが、性的な能力が減退していく中でも、コレクションを増やし続けなければならないので、必然的に精力剤に頼ることになります。最近はスポーツ新聞だけではなく、一般の新聞でもこうした商品の広告を見掛けるようになりましたね。広告費は高額のはずですから、よほど売れるのでしょう。

しかし、脂ぎった顔でまむしドリンクを握りしめ、精力を維持する秘訣を語るおじさんに、魅力を感じる女性がいると思っているのなら、正気のさたではありません。最終的には、女性からは求められず、同性から見てもおぞましい、しかし、本人は自信満々の悲しいモンスターが誕生します。

性的な経験と能力を結び付ける一部の男性の思考は、「二重の悲劇」につながります。まず、女性を人ではなくモノとして見るような男性のせいで、一緒に暮らしたり、働いたりする女性は被害を受けます。加えて、客観的な視点を失うことで、男性にもモンスターに成り果てるという被害をもたらします。つまり、男性が加害者となって、女性に被害をもたらす悲劇と、男性が加害者となって男性自身に被害をもたらす悲劇が、そこにはあります。

職場はもう、男性だけの閉じた空間ではなくなった

今回のご相談で興味深いのは、相談者さんからは「童貞とおぼしき若い男性」と彼を批判する中年男性が、仕事上の能力に関して「両者は似たもの同士」に見える点です。

性的な経験の豊富さを理由に、俺とあいつは違うと主張する男性は、その場に男性しかいない状況では劣等感を抱かせて、「有能さ」をアピールすることができました。しかし、職場が男性だけの閉じた空間であった時代に形成された「奇妙な習慣」は、女性の職場進出が進むことで、外からの視線にさらされることになります。同じ穴のムジナ同士で交わされていた「自慢話」は、やがて「恥ずかしいエピソード」に塗り替えられていくはずです。

女性が無力な存在として物語に描かれていた時代には、お姫様は王子様からのキスで目を覚ましていました。女性も男性も対等な立場で働く時代に、眠りから覚めなければならないのは誰でしょうか。

目を開かせるための手段については真剣に考えなくてはなりませんが、「二重の悲劇」からの解放は、女性に加えて、性的な経験に固執する男性にとっても福音になります。女性からの疑問を「攻撃」として理解するのではなく、建設的な「意見」として聞く耳を持つことが解放への第一歩です。お互いのためになることですから、相談者さんは遠慮することなく、ぜひ職場で男性たちに疑問を投げかけてあげてください。

田中 俊之 大妻女子大学人間関係学部准教授

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たなか としゆき / Toshiyuki Tanaka

1975年生まれ。2008年博士号(社会学)取得。武蔵大学・学習院大学・東京女子大学等非常勤講師、武蔵大学社会学部助教、大正大学心理社会学部准教授を経て、2022年より現職。男性学の第一人者として、新聞、雑誌、ラジオ、ネットメディア等で活躍している。

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