トランプ大統領令は「オバマケア」を殺すか 中途半端な大統領令は改悪をもたらす

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オバマケアに関する大統領令に署名するトランプ大統領(写真:Kevin Lamarque/ロイター)

ドナルド・トランプ政権が、矢継ぎ早にバラク・オバマ時代の否定に動いている。

10月10日には、オバマ政権の地球温暖化対策の目玉であった火力発電所規制について、これを撤廃する方針を正式に表明。続いて12日には、オバマ政権による医療保険制度改革であるオバマケアに関し、その円滑な運営を難しくするような2つの決定を行った。さらに翌13日には、オバマ政権が主導したイランとの核合意について、「イランが順守しているとは認められない」との判断を示している。

これらの措置に共通するのは、大統領権限だけで実行できることだ。背景には、一向にはかどらない議会審議への憤りがある。身内の共和党が上下両院の多数党であるにもかかわらず、重要な公約は軒並み立法作業に手間取ってきた。その打開策としてトランプ政権は、議会の夏季休会が開けた9月には、民主党との協調路線をちらつかせる新機軸に出ていた(「トランプ大統領豹変」に2大政党が大慌て)。大統領権限によるオバマ路線の否定は、一転して民主党と正面から対決する内容だが、根底にある問題意識は変わっていない。

困ったときの常套手段

大統領権限に活路を見いだそうとするのは、トランプ大統領が初めてではない。2014年にオバマ大統領は、「私にはペンと電話がある」と述べたことがある。なかなか進まない議会審議に業を煮やし、大統領権限(ペン)と支持者への支援要請(電話)を活路にしようという意思表示である。幼少時に親に連れられて入国した若い不法移民に対する強制送還の猶予措置(DACA)などは、「ペン」によって実現したオバマ政権の成果の代表格だった。

トランプ政権も、これまでも大統領権限を積極的に使ってきた。9月末までのペースが続けば、年末までに約70件の大統領令が発表される勢いである。そうなれば、オバマ政権やジョージ・W・ブッシュ政権の約2倍に達する。

変わってきたのは、大統領令の使い方だ。まず、内容が洗練されてきた。1月に発表された移民・難民の入国を制限する大統領令は、十分に内容が練られておらず、裁判所から差し止め命令を受けている。3月発表の第2弾に続き、9月発表の第3弾も司法の場で争われているが、最新の第3弾については、最高裁での司法判断に耐えうる内容に変わってきていると指摘されている。

内容も本格的になってきた。ここにきて標的にされている温暖化対策やオバマケア、そしてイラン核合意は、いずれもオバマ政権の代表的な業績である。なかでもオバマケア関連の決定は、これまでとは深刻度が違う。

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