ネットは「テレビのあり方」を変え始めている 「放送枠を持つ者」だけでは生き残れない

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「キー局がドキュメンタリーの制作を外部に依頼する場合、必ずそのようにオーダーをする。海外の局でキー局の作品が放送されないのはそうしたことが理由。一方で、地方局が制作した演出のない伝統工芸や伝統工芸を伝える映像には一定のニーズがある。大きな金額で売れる市場ではないが、放送外で映像が楽しまれる時代、こうした面に目を向けるべきではないか」(前出の元・海外番組販売担当)

限られた数の在京キー局が一等地ともいえる(海外に比べると限られた)放送枠を持ち、そこにおカネが集まる日本の事業環境においては、この状況が急激に変化することは望めないが、一等地の地主だけが潤う環境では、カルチャーとしてのコンテンツビジネスが育たないこともまた自明だろう。

1つの切り口としてあるのは、関西テレビのように在京キー局と密接に結び付いたコンテンツメーカーが意識を変えていくことだが、中長期的な視野に立つならば、在京キー局自身の意識も変わっていくべきときではないだろうか。

もっとも、在京キー局の考え方も少しずつ変化してきているようだ。TBS海外事業部担当部長の杉山真喜人氏は「以前は海外での販売、配信といった意識が低く権利面をはじめ、パッケージとして売りにくい側面もあった。しかし、ここ数年は状況が大きく変化してきている。これまでドラマの脚本やフォーマットはアジアが中心だった。しかし、中南米における韓流ドラマの成功例などもあり、海外での販売を意識した枠組みも始まっている。アジア以外への外販は、かなりリアリティを持つようになってきた」と話す。

商取引の中心にあるのは「ドラマ」

海外で映像コンテンツの取材をしていると、多くの外国人記者の質問が“ドラマ”に集まる。日本コンテンツはアニメやフォーマット販売などで大きな実績を作っているが、商取引の中心にあるのはドラマだ。

“カルチャーの違い”“国内市場重視でなければ事業が成立しない”という事情はあるにせよ、それらのハードルを越えていける枠組みがなければ、ネット配信の比率がグローバルで高まる中で、得意のアニメも壁に突き当たるのではないだろうか。

いまや放送、パッケージ、配信など、マルチユースでコンテンツの事業を組み上げていくのは当たり前。在京キー局の意識が変化してくるのであれば、ドラマならずとも日本におけるコンテンツ産業の事業環境も変わってくるのかもしれない。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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