ぽっちゃりタレントが続々と痩せ始めた理由 トレードマークのはずが割に合わなくなった

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テレビで健全さが求められるようになったというのは、「肥満」だけに限った話ではない。たとえば、出川哲朗や上島竜兵が主戦場としているリアクション芸の世界においても、多くの視聴者が本当に痛々しく感じてしまうような過激な企画は、最近のテレビではあまり見掛けなくなってきた。

ぽっちゃりタレントとして有名な松村邦洋がやせたのも、そういう背景があるからではないだろうか。いわば、ぽっちゃりタレントであることが割に合わない時代が訪れているのだ。多くのぽっちゃりタレントがダイエットを始めたり、ひそかに健康に気を使ったりしているのはそのためだ。

実際、女性芸人でもぽっちゃり体型の人はいるが、そのこと自体を売りにしている人は少ない。むしろ、渡辺直美のように、太っていてもおしゃれをしたり激しいダンスを踊ったりして、明るく健全なキャラクターを出す人のほうがより多くの人に支持される傾向にある。

冠番組を多く持つマツコ・デラックスさん(撮影:今井康一)

実は、どんどん健全になっていくテレビの世界で、食べ物をおいしそうに食べることで絶大な人気を博しているぽっちゃりタレントが1人だけいる。それは、マツコ・デラックスだ。マツコは太っているだけでなく、女装家、毒舌家、人情家といったキャラクターの「全部のせ」状態であるため、いわゆるぽっちゃりタレントとは認識されていない。

「健全・不健全」という二元論を超越した存在

だが、「マツコの知らない世界」でいろいろなものを食べて率直な感想を言ってのけるマツコは、紛れもなく「ぽっちゃりタレントの伝統芸」を受け継いでいる人間である。彼女はすでに「健全・不健全」という二元論を超越した存在であるため、今さら世間から非難されることもない。

逆に言えば、マツコぐらい突き抜けた存在にならないかぎり、これからの時代にぽっちゃりタレントが生き残っていくのは難しいということだ。「太っている」という欠点すら個性として活かせるのが芸能界の面白いところだったわけだが、そういう考え方もしだいに通用しなくなってきている。テレビというメディア自体が、「不健全」や「不謹慎」というぜい肉を切り離してどんどんスリムになっているのだ。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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