立憲民主党は、孤児たちの新「駆け込み寺」に 「希望の党」の排除宣言に「絶望からの反撃」

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もちろん、「政党の命は理念と政策」という原点に立てば、小池氏の対応は「筋論としては正しい」(自民長老)ともいえるが、「政権交代を目指すなら、広範な反自民勢力の結集が大前提」(同)となるのは当然だ。このため政界では「政権交代という目標は選挙戦を盛り上げるための小池氏の大風呂敷だったのでは」(共産幹部)との見方も広がる。

首相ら政府与党首脳の間にも「これで恐れていた自民党の半数割れもなくなった」(選対幹部)との安堵感が広がる一方、突然の立憲民主党というリベラル新党の登場で「小池新党に代わって枝野新党がブームを巻き起こすのでは」(同)との不安も拭えない。ただ、「野党陣営の分裂は与党を利する」(希望の党幹部)ことは間違いなく、有権者への"刺激"を避けるためか、首相らの「小池攻撃」もトーンダウンしている。

民進党「名を捨てて つかんだ実は"毒の泡"」

そもそも、こうした事態を招いた最大の原因は、希望の党への民進党合流を決める際の小池・前原会談での「認識のズレ」だ。小池氏サイドは「初めから理念や政策で(候補者を)選別することを伝えた」とするが、前原氏の受け止め方は「事実上の民進党丸ごと合流」だったとされる。だからこそ、いったん希望の党支援に舵を切った神津連合会長が激怒して方針転換したのだ。

1996年の民主党結党以来、21年間、「大政党」として自民党と対峙してきた民進党はとうとう分裂・解体となった。1997年の金融危機で廃業に追い込まれた山一證券の最後の社長は廃業会見で「社員は悪くありませんから」と涙で絶叫したことで知られるが、民進党内には「『党の議員は悪くない』と前原氏が涙で謝罪すべきだ」との怒りの声も広がる。永田町では「名を捨てて つかんだ実は"毒の泡"」という笑えない川柳が関係者の無念を伝えている。

前原氏とともに無所属での戦いを選択する野田、岡田、安住各氏は、枝野氏や今回希望と民進の候補者調整を手掛ける玄葉光一郎元外相と合わせて「民主党6人衆」と呼ばれ、鳩山由紀夫、菅直人、小沢一郎3氏による「第1世代」に続く「第2世代」として2009年政権交代後の民主党政権を支えた。6氏はそれぞれ政治・政策理念を超えて信頼関係で結ばれていたが、今回、やむなく袂を分かつことになる。

政界で「カラオケ大魔王」と呼ばれる枝野氏は、希望の党からの同氏の「排除」が明らかになった際、「1人カラオケに行きたいよ。『不協和音』を歌うんだ」とつぶやいて夜の闇に消えた。「不協和音」とは人気女性グループ「欅坂46」のヒット曲だ。歌詞の中には「不協和音を僕は恐れたりしない 僕には僕の正義があるんだ」というくだりがある。枝野氏のやるせない気持ちにピッタリのフレーズだ。民進党代表選の遊説での移動の際に、自らiPodにダウンロードして練習した曲の1つとされる。

菅内閣の官房長官として、2011年春の東日本大震災や福島第一原発事故対応での政府スポークスマンを務めた枝野氏のテレビ画面からもにじむ不眠不休の奮闘ぶりに「菅起きろ、枝野寝ろ」との国民の声が相次いだのは記憶に新しい。永田町では今回の「小池劇場」の魔訶不可思議な展開を「保守勢力による民進党の解体と連合の分断を狙ったリベラル潰しだ(社民党幹部)と憤る向きも少なくない。

第2次安倍政権発足以来、インターネットでの「つぶやき」などからも若年層の保守化・右傾化が際立つ。ただ、戦争を知る高齢世代を中心とするリベラル勢力はまだまだ健在だ。「新たな女性の独裁者から排除された中年男の悲壮感」(民進長老)が日本人特有の"判官びいき"という琴線に触れれば、昔の名前のような立憲民主党が「革新勢力の星」に躍り出る可能性もある。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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