高等教育無償化は、一体何を目的に行うのか 「院卒不足」と「過剰教育」のジレンマ

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ほかの先進国との対比で日本が「院卒不足」であることが示される一方、日本は逆に「オーバーエデュケーション(過剰教育)」であるという指摘もある。OECD(経済協力開発機構)の「国際成人力調査(PIAAC)」によると、日本人の31.1%が「仕事に必要な学歴や能力・資格より、自分の学歴や能力・資格のほうが高い(over-qualification)」と答えた。調査国の中で日本は僅差でフランスに次ぐ2位であり、多くの人が過剰教育だと感じている。

玄田有史編『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』では生産性や賃金が伸びにくい理由の一つに「企業内OJT(On-the-Job Training)の衰退」が挙げられている。生産性向上に必要なのは、高等教育ではなく、実際に企業で使えるスキルであるという見方もあるだろう。

少子化が進む中での大学改革の方向性など、高等教育のあり方については多くの論点がある。しかし、当リポートで議論した2つの論点である「院卒不足」と「オーバーエデュケーション」というジレンマに対する解決策は、高等教育の無償化ではないだろう。

無償化というわかりやすい議論に終始するのではなく、少子化の問題点を中心に幅広く問題をとらえるべきである。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

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すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

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