カンボジアで吹き荒れる「反対派弾圧」の全貌 政府に批判的姿勢を貫いた英字紙が廃刊に

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実際に、デイリーは多くの調査報道で知られる。カンボジア特別法廷、土地収用の問題、警察や司法の腐敗などを粘り強く取り上げ、中でも違法伐採についての報道が、今年のアジア出版社協会・調査報道賞に輝いたばかりだった。「でも、もっと重要なことは、カンボジアの若いジャーナリストにとっての訓練の場だったことです。勇敢な彼ら彼女らはカンボジアの揺籃期にある民主主義をあまりに気にかけたので、仕事の中で巨大なリスクにをとったんです」(フルービー氏)。

最近のカンボジアにおける反対派弾圧の流れは、これだけにとどまらない。8月には、米・民主党系のNGO、全米民主研究所(NDI)が閉鎖に追い込まれ、在プノンペン・米国大使館がカンボジア政府の民主主義へのコミットメントに疑問を呈した。また、政府の指示によって、15ものラジオ局が閉鎖か運営を停止した。

これらのラジオ局はラジオフリーアジア(RFA)や、ボイスオブアメリカ(VOA)などに放送時間を販売していたと報道された。それに輪をかけるようにして、9月3日の未明には、最大野党・救国党のケム・ソカ党首が国家を傷つけようと、外国人とともに秘密裏に計画を立てていたとして、国家叛逆の容疑で逮捕された。

政府による締め付けの動きが強まっている理由

数年前までより民主的な道を歩んでいるように見えたカンボジア。なぜここにきて、政府による締め付けが目立ってきているのか。その理由については国内的な要因と国外的な要因に分ける見方がある。

まず、国内的な理由として、2018年7月に予定される総選挙で与党と野党の拮抗が予想されていることが挙げられる。2013年の前回の議会選挙では、野党・救国党が大きく躍進し、今年6月に行われた地方議会選挙でも、野党側が勢いづき、与党・人民党は多くの行政区で第1党の座を明け渡した。「この結果は人民党の地方での政治的優位の終わりを象徴している」(カンボジア政治に詳しいチアン・バンナリット氏のリポート)との分析もある。

このほかにも最近の国際関係の変化がフン・セン首相を「勇気づけた」可能性がある。多くの人が一致して指摘するのが、ここのところ中国からの投資や援助が大幅に増えたことで、カンボジアが欧米的価値観を無視しても構わない状況が生まれているという点だ。同時に、バラク・オバマ前政権がアジア重視の「再均衡」戦略をとったのとは対照的に、就任から半年以上経つトランプ大統領の東南アジア政策はほぼ白紙にとどまっていることが指摘されている。

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