カンボジアで吹き荒れる「反対派弾圧」の全貌 政府に批判的姿勢を貫いた英字紙が廃刊に

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しかも、不服を申し立てる機会は与えられていないのだという。「これらの政府による行動はデイリーに対する政治的動機に基づいたものだと、私の税理士は確信していると言っている。14年の経歴の中で、これだけ法律や正常なプロセスを逸脱したケースは見たことがないと。通常ある拒絶の機会なく、30日の期間だけが与えられた」(デボラ氏)。

デボラ氏は今春、実質的な経営権を父から受け継いだばかりだった。デボラ氏自身は東京在住だが、デボラ氏の夫は現在カンボジアの首都プノンペンにいて、税金の問題が解決するまで国外に出ることができない状況にある、とのことだ。同じく東京に住むバーナード・クリッシャー氏は今回の政府の対応に憤っており、彼が長年デイリー紙の責任者であったことから、「カンボジア政府が誰かを起訴しないといけないのであれば、私がカンボジアに戻る」と言っている。

カンボジアのジャーナリストを育ててきた

カンボジアに詳しいジェトロ・アジア経済研究所の初鹿野直美氏は今回の政府側の行為について「一線を越えている気がする」と述べた。

9月4日付の英字紙カンボジア・デイリーの一面大見出しは「あからさまな独裁への転落」だった(写真:ロイター/アフロ)

カンボジア和平成立後の1993年に誕生した初の英語・クメール語併記の日刊紙デイリーは確かに、単なるアジアの片隅の英字紙と呼ぶには不釣り合いなほどの重要性を持っていた。初鹿野氏の解説によると、国内の知識人の間で読まれ、政府の役人も読むようなメディアとのことだ。

デイリーの元エディターで今は上海に拠点を置くデニス・フルービー氏は、この新聞社でジャーナリストとしての基礎を学んだ。会社の資金不足から、木製のいすに座り、10年以上の年季の入ったパソコンで記事を編集する日々だった。

外国人スタッフの中には、デイリーで働いた後に世界で最も尊敬される媒体――ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストやAP通信などへ進んだ人もいて、中にはピューリッツァー賞受賞者もいる、とフルービー氏は話す。

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