西郷隆盛の人望が驚くほど厚かった根本理由 600人が「ついていきたい」と後追い辞職

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2.優れた人物にポジションを与えて活かす

西郷は、集団の最適化をして、高い視点で人材を活かすことを説いています。本当に力のある人物を見つけたら、その人物にぞんぶんに手腕を発揮させる。もし自分よりリーダーとして優れた人物がいるならば、自ら道を譲って成果を高める道を選ぶべきだとさえ語っています。

そのために必要なことは「確固とした理想を持つ」「(優れた意見を)丸ごとのむ」ことです。

多くのメンバーを束ねるリーダーのもとには、さまざまな意見が集まります。このとき「この組織をどうしたいのか」という理想がないと、すぐに一つひとつの意見に振り回されてしまいます。そうならないために理想を持ち、その理想を達成できる優れた意見に接したときは小さなプライドを捨てて、すべてを受け入れる度量が必要なのです。

3.辛抱して部下を育てる

組織を動かしていくうえで部下の成長は欠かせません。西郷は部下の育成についても、一家言を持っていました。

現代では仕事のやり方をマニュアルや研修で失敗しないよう手取り足取り教えてくれる企業が多いですが、西郷は「少しだけ無理を命じよ」と、真逆のことを言います。

手を貸さずに無理なことをさせれば、多くの部下は失敗するでしょう。しかし、西郷は失敗しても叱責しません。部下がどのようにして難題を乗り越えようとしたのか、その過程こそが成長であると考えたからです。そして、また新たな機会を与え、成長を促します。

西郷のやり方はとても時間がかかると思われるかもしれません。しかし、「人を育てる」とは辛抱です。最初にやり方を教えてしまっては、考える機会、成長するチャンスを奪ってしまうともいえるのです。

シンプルで厳しい心得

『信じる覚悟 超訳 西郷隆盛』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

「好き嫌いを超えて判断」し、「確固たる理想」をかなえるために「優れた意見を丸ごとのむ」度量を持ち、「辛抱しながら」部下を育てる……。西郷が説く「リーダーの心得」は、言葉にすると実にシンプルです。しかし、シンプルであるがためにごまかしがきかない、非常に厳しいものといえるでしょう。

このシンプルで厳しい心得を実践したからこそ、西郷は、日本を新しい国にするという理想に邁進し、敵である勝海舟との会談で江戸無血開城という最善の選択をし、かつ村田新八・桐野利秋・篠原国幹・西郷従道など明治政府の要職につく有能な部下が西郷のもとから巣立ちました。西郷の心得は、小手先のテクニックに頼りがちな私たちに、真のリーダー像、指導者としての王道を教えてくれているのです。

鈴木 博毅 ビジネス戦略、組織論、マーケティングコンサルタント

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すずき ひろき / HIroki Suzuki

1972年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。貿易商社にてカナダ・オーストラリアの資源輸入業務に従事。その後国内コンサルティング会社に勤務し、2001年に独立。戦略論や企業史を分析し、新たなイノベーションのヒントを探ることをライフワークとしている。『「超」入門 失敗の本質』(以上、ダイヤモンド社)、『実践版 孫子の兵法』(プレジデント社)、『3000年の叡智を学べる 戦略図鑑』(かんき出版)など著書多数。

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