インドで1億5千万人を導く日本人僧侶の人生

色情因縁「私には黒い血が流れている」

佐々井は差別と闘う一方で、仏教の聖地であるブッダガヤーの大菩提寺がヒンドゥーの手にあることを知ると、何万人もの仏教徒を引き連れて座り込みのデモや壮絶なハンストを決行した。また、地下核実験が行われた時には弟子たちとともに首都に乗り込んだ。

「国会の前で拡声器から言ってやったんだ。世界で原爆体験をした唯一の国、日本から私は来た。大バカ者の首相よ、出てこーい! 仏陀は笑っているぞ! 人を殺すならまず私を殺せ! ってな。そしたら国会前はシーンと静まり返った。苦しむのはいつの時代も罪なき市民。その市民を命がけで守るのが本当の菩薩道だ」

佐々井一家、ここにあり!

インドでは佐々井を知らぬ歴代の首相はいない。強きをくじき、弱きを助ける。破天荒な行動力、義理人情、それでいてユーモアのある性格が愛され、インドラ寺の一角にある佐々井の小さな部屋の前には、毎日、行列ができる。

インドラ寺にある10畳ほどの佐々井さんの部屋。ついたての裏にベッドがある。毎日のように人々が陳情に訪れる(撮影:白石あづさ)

「もう、いろんなやつが来るよ。弁護士から医者に泥棒、酒飲みまで。貧しさから悪の道に進んでしまう者もおるが、根が悪いわけではない。1度、30人も殺したという大悪党の男を改心させて頭を丸めさせたことがある。泣く子も黙る佐々井親分だって? おう、佐々井一家には違いないな!

精悍(せいかん)な顔が一瞬でしわくちゃになり、ガッハッハ、と豪快に笑いだした。普段、佐々井の身の回りの世話をしている青年、ゴータマさんも佐々井一家のひとりだ。

「両親ともに仏教徒で、ゴータマとは佐々井さんがつけてくれたブッディストネームです。ブッダガヤーのデモに連れて行ってもらった時、一歩も引かずすごい人だなあ、と。でも僕は高校生の時に、仏教で禁止されている酒を隠れて飲んで荒れていた。佐々井さんからもらったお小遣いも嘘をついて酒に使ったんです。でも前から知っていたんでしょう。ある時、真剣に怒られキッパリやめた。本気で心配してくれているのが伝わったからです。道に迷ったとき導いてくれる。誰に対してもそう」

知名度が上がるにつれ、忍び寄ってくるのが敵だ。人気を妬(ねた)み、悪い噂を吹聴する者や、急に増えた仏教徒に恐れをなし暗殺をくわだてる者もいる。食事に毒を入れられ意識を失ったり、壇上から突き落とされ病院に運ばれたことも1度や2度ではない。日本でも、「佐々井のやっていることは仏教ではない。ただの社会運動だ」と批判されたことがあった。

「ただ静かにお経を上げ、お布施をもらうだけが僧侶ではない。何もせんやつに何を言われようとかまわん」と意に介さない。

ところが、そんな肝の据わった佐々井に一大事が起きた。1987年、不法滞在で逮捕されてしまったのである

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1976年に創業し、90年代の渋カジブームを牽引したビームスが今も元気だ。創業以来赤字知らず。40年、最先端を走り続けられる秘密は何か。設楽洋社長への独占インタビューを掲載。