インドで1億5千万人を導く日本人僧侶の人生

色情因縁「私には黒い血が流れている」

「信仰の厚いタイでは坊さんは大事にされる。それが私にはよくなかった。暑いタイではコーラがうまい。いくらでも寄進をしてくれるから1日20本も飲み続けてコーラ中毒になった。おまけに抑えていた女性への感情がむくむくと湧き上がり、気がつけば、タイの尼さんで一番の美人と恋に落ちてな。さらには中国娘も加わり三角関係だ。日本のお師匠様の耳にも入り、もう恥ずかしくて帰国できない。それで、お釈迦様が生まれたインドにしばらく行ってほとぼりをさまそうと。女からも日本からも逃げたんだ」

満月の夜のお告げ「汝、龍宮へ行け」

僧になっても色情因縁から逃れられないのか。しかし、苦しみやつらい経験はすべて試されていたのかもしれない。渡印から1年たった満月の美しい晩、思いもよらない奇跡が佐々井の身に起きたのだ。

インド東部のラージギルにある日本山妙法寺の八木天摂上人のもとでお世話になり、帰国を考え始めたころ、真夜中に肩をものすごい力で押さえられハッと目を覚ました。

「夢じゃないよ。みんな信用してないんだから! 声は出ないし身体は震え、もう恐ろしくて。白ヒゲの老人が現れ、『われは龍樹なり。汝(なんじ)、速やかに南天龍宮城へ行け、南天鉄塔もまたそこに在り』と言い残して姿を消した。あわてふためき、上人をゆすって起こすと“こら、何を寝ぼけているんだ?”とまた寝てしまったんだ

龍樹菩薩とは大乗仏教の祖となる人物。しかし、龍宮城とは? 朝を待ち上人に改めて相談すると、「龍はナーガ、宮はプーラ……インドのど真ん中にあるマハラシュトラ州のナグプールのことではないか? 南天鉄塔とは文殊菩薩から授かったといわれる経典を所蔵する伝説の塔だろう」と教えてくれた。

アンベードカル博士を称えるレリーフ。不可触民は、井戸や湧き水に近寄ることを許されなかった(撮影:白石あづさ)

ナグプールとはアンベードカル博士というインドの偉人が、亡くなる2か月前の1956年、数十万人の不可触民とともに仏教に改宗した地であった。博士自身、不可触民の出だが大変な苦労をして学び、奨学金を得てイギリスやアメリカに留学。インド独立後、初の法務大臣となり差別を撤廃した新憲法を制定した。それでも差別はなくならない。そこで人間平等を説く仏教に望みを託したのだ。

「差別と闘ったのはガンジーだと思い込んでいたんだ。ところがナグプールに着いてわかったのは、不可触民の間で絶大な人気を誇るのはアンベードカル博士。ガンジーは不可触民を『ハリ・ジャン(神の子)』ときれいな名前をつけてごまかし、むしろカースト社会を残そうとしていた。博士は国際的にも評価され今では国内でもカーストにかかわらずガンジーよりも偉業が知られている。もっと日本でも研究されてもいいのだが」

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