「運賃高すぎ」北総線の値下げは可能なのか 地元による安価な並行バス路線が好調

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ちばレインボーバスによる北総循環線開設について、「ちばにう」の提案者である前田氏は、「千葉ニュータウンでの安くて手軽な移動を求める住民ニーズの高まりに対して、京成グループとしても座視できなくなった表れではないか」と推察する一方で、「たとえば、福岡では地下鉄と路線バスが並行するなど、多様な公共交通が共存することで利用者の底上げに成功している。千葉ニュータウンでも公共交通の選択肢が増えることで、利用者の新規需要を創出できるはずだ」との見立てを披露する。

これまで見てきたように、「ちばにう」誕生のきっかけとなったのは北総線の高額運賃であるが、運賃引き下げは本当に困難なのであろうか。京成電鉄単体の収益は、北総線を利用してスカイライナーを運行した2010年度以降、順調に増加している。そうであれば、北総線の債務返済のために京成電鉄の旅客にも一定の負担を課し、それを原資とした北総線運賃値下げが考えられてもよい。

あるいは、輸送力増強のために運賃に上乗せして旅客から前払いを受ける「特定都市鉄道整備積立金制度」の前例もある。京成成田空港線の線路にもなっている北総線第2期線建設に係る債務償還について、京成電鉄の旅客に一定の負担を求めることには合理性があると筆者は考えている。

バスは北総線運賃に影響するか

北総線運賃について、内閣府消費者委員会委員として鉄道運賃問題を審議した経験をもつ細川幸一日本女子大学教授は「国交省、千葉県に生活者目線での鉄道運賃政策遂行能力が乏しく、司法も行政の不適切な政策決定に対して非常に甘い。学者、市民、バス事業者が共同で路線バス運行という形で新たな交通機関を生み出した意義は大きい。北総鉄道もこうした動きを無視できないはずだ」と見る。

千葉県議の瀧田氏も「『生活バスちばにう』のビジネスとしての成功が、結果として北総鉄道の経営判断に影響を与え、値下げにつながる可能性が高まる」と、「ちばにう」が北総線運賃へ影響を及ぼすことになると予想する。

今後、北総線運賃問題に端を発した、千葉ニュータウンにおける路線バスの展開はどのような帰結を生むのだろうか。鎌ヶ谷観光バスの徳永昌子専務は「地域のニーズに応えるため、今後も『ちばにう』の路線拡大を進める」と事業拡大に並々ならぬ決意を示す。「友の会」の武藤弘代表も、「新ルートは新たな道のりの始まりにすぎない。利用促進に全力で取り組み、持続可能なバス運行につなげていきたい」と全面協力することを誓う。

京成グループは北総線運賃には手を付けず、北総線に並行する路線バスを開設・拡大する方針を選択した。「ちばにう」の開設をきっかけに生まれた千葉ニュータウンにおける公共交通の新たな展開に熱い視線が向けられている。

大塚 良治 江戸川大学准教授

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おおつか りょうじ / Ryouji Ohtsuka

1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。明治大学兼任講師、および東京成徳大学非常勤講師を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。

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