プレミアムフライデーは愚策としか言えない 時間があってもおカネがなければ意味がない

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高橋:もう少し詳しい話をしようか。経子さんは、毎月、貯金してるの?

経子:できれば手取りの2割、少なくとも1割はしたいと思っています。友達の結婚式とか、買わなきゃいけない物があると1割以下になることもあるけれど……。

高橋:マクロ的に言うと、みんなが貯金ばっかりしてると消費が少なくなって経済に悪影響を与えてしまう。でも、経子さんの家計というミクロで言うと、将来のために毎月、貯金しているのはエライよね(笑)。

可処分所得は、消費と貯蓄に分けられる。でも、世の中には貯金する人もいれば、しない人もいる。収入が少なくてほぼ全額生活費にせざるをえない人もいるし、性格的に絶対、貯金なんかしない人もいるからね。経済学では「消費性向」って言うんだけど。この消費性向を社会全体で平均すると、だいたい70~80%で安定している。

仮に70%としようか。可処分所得、つまり手取りが30万円だと、9万円貯金して、21万円が使われるわけ。消費性向は一定だから、消費に回される21万円を増やすにはどうすればいいかな? これは数学というよりも算数の問題だよ。

経子:え? えーと……。

分母を増やさないかぎり…

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大将:他人がおカネを使うか、貯金するかをコントロールするのは難しいですよね……。ってことは、分母を増やすのがいちばんなんじゃないかな?

高橋:そのとおり。可処分所得を増やせばいい。で、手っ取り早く可処分所得を増やすには、減税して手取額を増やすのがいちばん。

経子:景気回復には減税が手っ取り早いってこと?

高橋:マクロ的に考えると、おのずとそういう答えになる。仮に、国民全員の可処分所得が1万円増えたとする。1万円を全額貯金にする人もいるだろうけど、1万円を全部使う人もいる。半分使う人もいるだろう。でも、社会全体の消費性向は7割だから、マクロ的に考えると7000円は使われることになる。それが1億2000万人としたら、8400億円の経済効果が見込まれるというわけだ。

経子:なるほどねぇ。

高橋:まあ、簡単に言っちゃえば、「時間があってもカネがなけりゃ、どうにもなんねえよ」ってことなんだけど(笑)。それを、経済学の側面から説明すると、こうなる。消費の源泉は財布ってことだな。

経子:やっぱり、プレミアムフライデーには期待できないのか……。

高橋:これまでもノー残業デーとか、似たような政策はあったけど、失敗してるよね。ミクロで考えられた政策はだいたいダメだ。法律で「日本すべての会社が15時まで」って決めるなら、働き方に何らかの効果があるかもしれないけど。ただ、そうなるとお店も休みだから、経済効果はマイナスだ(笑)。かえってめちゃくちゃになってしまうし、結局はミクロ的な発想をベースにしても、景気回復効果は見込めない。定着はしないね。

高橋 洋一 政策工房会長/嘉悦大学教授

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たかはし よういち / Yoichi Takahashi

1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省(現・財務省)入省。プリンストン大学客員研究員時代、のちにFRB議長となるベン・バーナンキ教授の薫陶を受ける。内閣府参事(経済財政諮問会議特命室)、総務大臣補佐官、内閣参事官(総理補佐官補)などを歴任。2007年に財務省が隠す国民の富「霞が関埋蔵金」を公表し、一躍、脚光を浴びる。2008年、退官。現在、大学で教鞭をとる

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