白鵬の相撲が批判されるほど「荒々しい」事情

理想の「横綱相撲」から遠ざかったのはなぜか

7月に行われた大相撲名古屋場所の12日目 、玉鷲に張り手を見舞う白鵬。大横綱とたたえられる白鵬だが、張り手やカチ上げを多用する最近の「荒々しい」相撲ぶりに対して批判の声が出ている(写真:共同通信社)

「やっぱり、白鵬は強い」。7月23日に千秋楽を迎えた名古屋場所で、王者は底力を改めて見せつけた。千代の富士の通算1045勝、魁皇の1047勝という史上2位、1位記録を次々と抜き去り、自身の持つ最多優勝記録を更新する39回目の優勝を達成。通算勝ち星の記録も、1050勝にまで伸ばした。一時期の不調を脱し、再び、抜きんでた土俵の王者として君臨しようとしている。

しかし、相撲ファンや関係者の間からは、その強さを称賛する一方で、相撲内容への不満も少なからず聞こえてくる。特によく指摘されるのが「荒々しさ」への批判だ。手のひらで相手の顔面を強烈に張る「張り手」や、ヒジのあたりを相手の顔面にぶつける「激しいカチ上げ」でひるませる。こうした取り口が、荒々しいと非難されているのだ。

あらかじめ断っておくと、どちらの行為もルールに反したことではない。相撲では、「握りこぶしで殴る」「髪の毛を引っ張る」「両耳を同時に張る」「目やみぞおちを突く」「胸や腹を蹴る」「1指または2指を折り返す」などの行為は「禁じ手」とされ、反則負けの対象となる。しかし、白鵬の行為はそのどれにも違反していない。それでも非難の声が上がるのは、この荒々しい技が、相撲の本質的な魅力を損なうものだからだ。

いったい何が相撲の最大の魅力なのか

相撲の魅力は語り尽くせないほどあるが、私は、最も大きいのは、格闘技の中で際立つ「ゲーム性の高さ」だと考える。「土俵の外に出るか、足の裏以外の部分が地面についたら負け」というルールは、実にシンプルでわかりやすい。柔道や剣道で「一本」を見分けるのは初心者には難しいが、相撲なら子どもでも勝負を判定できる。そして、注目したいのが、このルールに「相手を痛めつける」要素がないことだ。

ボクシングは、相手をノックアウトすることを目指すスポーツだ。柔道には関節技や締め技があり、相手が「参った」をすることで勝負が決まる。剣道で防具をつけるのは、そうしなければケガをしてしまうからだ。しかし、相撲のルールには、こうした相手を痛めつける要素がない。

もちろん、相撲でケガをすることも、頭と頭で思い切りぶつかってクラクラすることもある。相手のヒジを外側から抱え込む「極(き)める」という技のように、結果として相手を痛めつけかねない技もある。しかし、その目的は痛めつけることでなく、相手の動きの自由を奪うことにある。保育園や幼稚園などで相撲大会が広く行われているのも、相手を痛めつけないルールがあるからだろう。これは、相撲が広く老若男女の心をとらえる大きな理由であり、相撲の本質的な魅力だと思う。

白鵬の張り手や激しいカチ上げは、こうした相撲の本質的な魅力を損ないかねない。

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