女性初の工場長になったママ社員の「価値観」 「女が来た」から始まった現場での格闘

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――読者は20~30代のビジネスパーソンが中心で女性も多いです。前向きにキャリアを考えられるようなアドバイスをいただけますか。

ちょうど、ワーク・ライフ・バランスが気になる頃だと思います。部下や後輩とよく話すのは「自分にとってのワーク・ライフ・バランスを定義してほしい」ということです。全員が毎日17時に帰ることがバランスではないはずです。

大事なのは、仕事で何を期待されているか、夫や子どもに何をしてあげるべきか、ではなくて、自分が何を求めているか、です。人に決められることではないので、自分でよく考えてほしいのです。

考えてみると、人は皆、毎日すごい数の決断を積み重ねています。何時に帰るか? お昼に何を食べるか? この相手に何を話すか? 一つひとつのチョイス(選択)の積み重ねが人生です。これを大事にしてほしい。

日記をつけて自分の行動や気持ちを振り返ったり、ライフ・ミッション・ステートメントを書いて、自分と向き合うのも良いと思います。自分が生きたいように生きられると自信がつきます。

自分の価値観が世間と違っていてもいい

――こういうお話は男女問わず、役に立ちそうです。

そうかもしれません。ただ、特に、女性は人に与えられた価値観に振り回されることが多いように思います。だから、特に女性には自分に正直になって、人生と仕事とを考えてほしいと思うんです。

優先順位はライフステージによって変わります。自分がいま最も大切なことを理解することが、最適なワーク・ライフ・バランスを維持する最も大切な第一歩であるということが前提です。

私の場合2人目が生まれてすぐに転勤をして、まったく経験のない工場の仕事を引き受けました。異動当時の私の優先順位1位だったのは、できるだけ早く工場の仕事を覚え、結果を出すことでした。

当然子どもも家庭も大切でした。しかし、“短期的には仕事が重要である”という明確な認識というか自覚をする必要がありました。

お母さんなんだから家庭がいちばん大切だといつでも思っていないといけない、仕事が大切と思うことはよくないことだ、と勝手に思い込んでいたため、自分でも不必要な罪悪感をつくり出していたように思います。でも自分に正直になるということが大切だと経験したからこそ思います。他の人や、世間がつくり上げた価値観と、自分の価値観とは違っていいのだ、と。そうした勇気をすべての女性にもってほしいです。

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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