三菱ケミカル、ついに動く「最強工場」の実力 汎用品のアクリル樹脂原料で海外勢を圧倒

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日本の総合化学メーカーは近年、伝統的な川上の汎用石化品から、高機能素材・材料へのシフトを推し進めている。技術参入障壁が低い汎用品は中国などアジア勢の台頭が著しく、製品の差別化余地も乏しいからだ。最大手の三菱ケミカルも基本的に汎用品は戦線を国内に限定し、付加価値の高い機能製品群を強化・拡大する経営戦略を掲げている。

しかし、越智仁社長は汎用石化品の中でMMAは話が別だという。「MMAでも中国勢が台頭してきてはいるが、当社には『新エチレン法』という強力な武器があり、コスト競争に十分勝てる。汎用品であってもMMAは戦略事業として、ワールドワイドで事業を拡大していく」。

米国でも新工場を計画

その牽引役として期待するのが今回の中東、そして、次に予定する米国の新工場だ。米国にはルーサイトの既存工場が2カ所にあるが、いずれも伝統的なACH製法。シェールガス革命によって、米国内の天然ガス価格は大幅に下落。そのエタン成分からエチレンを作る設備が次々に建設され、安価な天然ガス由来のエチレンを使える環境が整いつつある。

MMAから作るアクリル樹脂(写真右:三菱ケミカル)は透明性が高く、着色時の発色も鮮やか。駅構内や店舗の看板標識(写真左:記者撮影)、レンズ、水族館の水槽など、幅広い用途に使用されている

新エチレン製法の工場を米国内で立ち上げれれば、サウジと同様に原料コストのメリットは大きい。労働者不足で現地の建設コストが高騰しているため、投資決定は先送りしている状況にあるが、「遅くとも2022年には稼働させたい。(工事に要する期間を逆算して)間に合うタイミングで正式な決断を下す」(宮木常務執行役員)という。

アジア市場を中心とする需要拡大などで市況が好転し、MMA事業の足元の収益は好調だ。2016年度は379億円の営業利益(売上高は2859億円)を計上し、同事業だけで旧3社合算利益の約4分の1を稼ぎ出した。今年度は年度途中に稼働するサウジの新工場が早くも収益貢献し、昨年度以上の事業利益を稼ぐ見通しだ。

強力なコスト競争力を有するサウジの新MMA工場だが、だからといって、新工場を武器に価格競争を仕掛けるつもりは毛頭ない。宮木常務執行役員は、「最大手の当社が安売りし始めたら、たちまち市況が崩れ、自分で自分の首を絞めることになる。安定的な収益成長を最優先し、事業を運営していく」と話す。

会社全体の方向性としては非汎用の高機能素材・材料に軸足を置くが、そうした事業は多額の研究開発費を要し、開花するまで時間を要するものも多い。最強工場を手に入れたMMA事業は、今や数少ない”稼げる汎用品”として、さらに太い収益柱になることが期待されている。

渡辺 清治 東洋経済 記者
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