A5和牛の「最高級神話」が消えつつある事情 脂肪比率「約5割」の肉は本当に美味しいのか

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千葉さんが赤身肉に注目したのは、当初、畜産(生産)から焼き肉レストラン(販売)までの一貫生産を目指したからだ。牛を育てるのにいくら努力しても必ずA5の肉と評価を受ける牛が育つわけではない。同時にA4もA3の牛も育つのが現実である。

畜産業の未来のために必要なこと

A5だけがレストランで高く売れても、A4、A3が安く買いたたかれてしまえば、一貫生産の収益性は高まらない。そこからA4、A3の肉でも美味しく食べる術を考え抜き、たどり着いたのが熟成肉だった。いわば生産と販売が連携する6次産業化の試みだった。

1999年に故郷の一関で「格之進」を開店してから20年近くが経った。千葉さんは「いまでは岩手県南部の畜産農家とネットワークを築き、A5だけでなくA4、A3でも収益を上げられる6次産業化の形が見え始めた。一関と東京を食でつなぎます」と言う。

健康志向が高まった消費地では、A5だけではなく、赤身肉も美味しく食べる工夫が必要であり、生産地ではA5だけを目指すのではなく、赤身肉でもそれなりの収益が出る仕組み作りに挑戦する必要があるのだ。

原田さんは言う。「消費者の好みに多様性が生まれている。だから産地にもA5だけを目指すのとは違う、多様性が求められているのです」。

多様性のない産業は、時代の変化に追随できずに衰退していってしまうのが道理だ。畜産業もまた同じなのである。

安井 孝之 ジャーナリスト・Gemba Lab代表

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やすい たかゆき / Takayuki Yasui

1957年兵庫県生まれ。日経ビジネス記者を経て、1988年朝日新聞社に入社。東京経済部、大阪経済部で自動車、流通、金融、財界、産業政策、財政などを取材した。東京経済部次長を経て、2005年に編集委員。企業の経営問題や産業政策を担当し、経済面コラム「波聞風問」などを執筆。2017 年4月、朝日新聞社を退職し、Gemba Lab株式会社設立、フリージャーナリストに。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業 エクセレント・カンパニーからグッド・カンパニーへ』(PHP研究所)など。

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