奨学金延滞率公表に教職員が猛抗議したワケ 「当該サイトを閉鎖することを強く要求」

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今回の延滞率データについては各大学にそれぞれ事前に提供済みだった。そのため、公表されたこと自体について、「大学の経営体からの反応は特になかった」(日本学生支援機構)という。

ところが、公表自体が誤りであると抗議してきた団体もあった。私立大学への公的助成や私立大学教職員の待遇改善などを目的とした労働組合の連合体である、日本私立大学教職員組合連合(以下、私大教連)だ。

私大教連は5月2日付で「日本学生支援機構による各大学の『奨学金延滞率』の公開に強く抗議する」と題した書面を公開。日本学生支援機構を直接訪問して真意を問いただしたという。

書面では「日本学生支援機構と文部科学省に対し、直ちに個別学校の延滞率情報の公開を停止し、当該サイトを閉鎖することを強く要求する」としているが、具体的にはどのような主張なのだろうか。

私大教連は、そもそも奨学金の返還延滞が長期化する理由について、「卒業後の経済的困難が圧倒的」であると指摘する。「延滞の主たる原因が、非正規雇用の増大など雇用環境の悪化による低収入や、返還者やその家族の諸事情による生活困窮にある以上、『在学中の指導を徹底する』ことでの延滞防止効果がごく限定的であるのは当然である」という。

確かに、奨学金返済が滞る理由が、経済的困窮が原因であることは、事実だ。機構が公表している平成27(2015)年度「奨学金の返還者に関する属性調査結果」でも、「本人の低所得」「本人親の経済困難」が上位の理由として挙がっていることがそれを裏付けている。

延滞率の数字にはまったく意味がない?

私大教連は、各学校で返還猶予制度を周知することや、いわゆる借りすぎを防止する取り組みを行うことの重要性は認めつつも、「それらの取り組みの強弱と各学校の延滞率との間に直接的な相関関係がないことは自明」としている。確かに、延滞に陥る事情は、複雑な要因が絡み合うため、「直接の」相関関係があるとまでいえるか、と問われればそれは難しいかもしれない。

しかし、気になる点がある。「個別学校の延滞率情報を公表することに何ら積極的な意味を見いだすことはできない」と断じていることだ。私大教連は「意味を有しない比較可能な数値が独り歩きすれば、各学校や卒業生に対する不要な偏見や誤った評価を生みだし、日々教育活動に精励する個別学校の名誉を毀損することは必然」としている。

大学に籍を置く立場からは、どのように感じただろうか。上越教育大学教職大学院の西川純教授は「非正規雇用の増大など雇用環境の悪化による低収入など、延滞の主たる原因が日本の経済に基づくものであるのに、それを個別の大学の責任として印象づけてしまう危険性があることは事実」と話す。

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