法人税減税は賃金アップにつながるか? 投資や賃金に生かせるか企業次第

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税制による設備投資・賃金増期待できず

一方、企業が主張するような設備や雇用・賃金への刺激効果は、そう簡単ではなさそうだ。企業の設備投資計画調査を5日に公表した日本政策投資銀行は「企業の設備投資は、キャッシュフローを大きく下回っている。設備投資を刺激するには、法人税減税など税制ではなく、将来の需要増加や期待収益率が上がっていくような循環的な流れが必要」(産業調査部)と指摘している。調査によれば、設備投資の動機づけとして企業が重視しているのが中長期的な期待収益率であり、将来の成長分野を後押しする政策が求められている。

経済同友会も、法人税減税による企業収益の拡大や海外企業の日本進出が、賃金の増加や設備投資の増加をもたらすと提言しているが、「そうした経路で実際にどの程度波及していくのか、定性的にはわからないのが実際のところ。(投資や賃金が増加するかどうかは)各企業の経営判断や資源配分にかかっているとしか言いようがない」としている。

経団連でも、法人税減税で投資が出てくるとすれば、これまで凍結されていた更新投資や省エネ投資、復興投資などが中心とみており、次の成長につながる投資が出てくるかどうかは、さらに何らかのファクターが必要と見ている。

積み上がるキャッシュフロー、動かす工夫

法人税減税を設備投資や雇用・賃金の拡大につなげるためにエコノミストらが指摘するのは、積み上がってくるキャッシュフローを投資などに振り向けさせる方策だ。

法人税減税が実施されれば、直接的には減税分だけ企業収益が増加し、キャッシュフローが増えることになる。すでに企業にはキャッシュフローが積み上がっている。法人企業統計によれば、1─3月期の手元流動性は173兆円と売上高の13%にのぼり、前年同期を上回っている。

ロイター調査によると、企業は手元資金の有効な使い道として「研究開発」を挙げている。新たな需要掘り起しや次なる成長につながる投資として、望ましい動きと評価できるだろう。

しかし、次いで多かったのが「内部留保」との回答だった。国内市場の拡大が見込めない中で、大規模投資に二の足を踏んでいる姿がうかがえる。せっかく法人税減税でキャッシュフローが増えても、資金が動かなければ、投資や雇用・賃金の拡大にはつながっていかない。企業自身、競争力強化のための投資や、将来の有望な需要に向けた投資、あるいは人材投資など、知恵を絞っていく姿勢が広がりを見せていない。

また、政府部内でも、企業の背中を押す施策に工夫の余地がありそうだ。今のところ、投資減税と法人税減税のどちらを優先させるのか明確なスタンスが定まっていない。甘利明経済再生担当相は、出遅れている設備投資のてこ入れ策として、まずは投資減税を検討する考えを示している。

ただ、投資減税は、経団連などが指摘しているように対象が絞り込まれ、効果が限定される可能性がある。

消費増税の環境整備として法人減税も実行するのであれば、寝かせたままの企業の手元資金をいかに動かし、デフレ脱却に向けた好循環につなげていくか、成長戦略においてさらなる工夫が求められることになる。

(ロイターニュース 中川 泉 編集:田巻 一彦 石田 仁志)

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