「2階建て高速列車」フランスがこだわる理由 日本ではもうすぐ消える運命だが…

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イタリアの最新高速列車は、いずれも動力分散方式。フレッチャロッサ・ミッレ(左)とイタロ(右)はライバル関係にある(筆者撮影)

そんな中、TGVのメーカーである仏アルストム社も、動力分散方式の新型車両AGVを開発、まずはイタリアの民間事業者NTV社の高速列車「イタロ」としてデビューを果たした。こうなると、次の採用は本国フランスかと思うが、これがそううまくいくものではない。

AGVは、TGVの中間客車と同じ連接方式を採用したが、これはすなわち制御装置や変圧器など、走行に必要な機器類を置くスペースを床下もしくは屋根上へ置かなければならない。たとえばE1系、E4系新幹線の場合、車体前後に台車があるボギー車という点で、こうした機器類をコンパクトにまとめ、台車上に搭載することができたが、AGVにはそれができないのだ。

つまり、AGVの2階建てタイプ建造は現在の技術では不可能ということだ。だが、前述のとおり、フランス各都市間の輸送力は限界にきており、今から平屋の車両を再投入することはできない。

バリアフリーの面でメリットも

もう1点、これは副産物と言われているが、現在の2階建て車両はバリアフリーの面でメリットがある。

昨今はバリアフリー法制定により、各鉄道事業者は車椅子利用者のため段差なく乗降できるような対策を義務付けられている。フランス国内の駅は、ほとんどすべてのホームが線路と同じ高さとなっており、そのため鉄道車両も低床車両が求められるようになった。ところが平屋の従来形TGVはほとんどに段差があり、車椅子対応には程遠い。AGVも状況は同じで、床下機器があるため低床車両にすることができない。

ところが、TGV-Duplexは全車両が低床車両となっている。そう、2階建て車両としたことで、1階部分に設けられた乗降口は、ホームの高さにぴったりなのだ。

フランス国鉄が、旧来の技術に固執し続ける理由……それは、別に片意地張った頑固者だからというわけではない。フランスにはフランスの、日本とは異なる複合的な要素が絡み合うことで、今後も通常車両からの置き換えを含め、2階建て車両を投入し続けなければならない事情があるためなのだ。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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