日銀に次期総裁とダイエットの準備はあるか 日米金融政策で浮き彫りになる明らかな違い

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イエレン議長の心中を推し量ってみると、来年2月3日に控えた自らの任期切れを意識していることだろう。彼女が前任のベン・バーナンキ氏の後を継いだのは2014年2月。これに先立ちバーナンキ前議長は、2013年6月のFOMCにおいてQEからの出口政策に言及し、年後半から米連銀による証券買い取り額を徐々に減額すると述べた。世に言う「バーナンキショック」である。

全世界の株価は大きく下落し、新興国通貨も動揺した。しかしバーナンキ議長は市場との対話を丁寧に行い、年内に「テーパリング」への筋道をつけてから引退した。資産買い取りは2014年10月、イエレン議長の下で無事に終了するが、あらかじめ方針を示しておいてくれた前任者に深く感謝したことは想像に難くない。

そこで今度は、イエレン議長が後任にバトンを渡す番となる。いちばん気になっているのはバランスシートの圧縮であろう。バーナンキ氏の「故事」に倣い、再投資計画の縮小はなるべく早めに打ち出したい。6月に計画を公表しておけば、「9月利上げ→12月圧縮開始」でもいいし、「9月圧縮開始→12月利上げ」でも良い。夏場にかけて景気が怪しくなってきたら、計画全体を後ろ倒しにすることもできる。こうしておけば、後顧の憂いなく議長の座を去ることができるという計算である。

「出口の入口」に向かうイエレン議長、一方の日銀は?

いや、もちろんトランプ大統領が、次の連銀議長をどう選ぶかは皆目見当がつかないし、イエレン議長再任の可能性もないではない。それでも中央銀行家の本能として、彼女は「次期議長にとってもっとも困難な課題については、なるべく自分のうちに筋道をつけておきたい」と考えていることだろう。自分はおそらく「出口政策の入口」を導いた連銀議長として歴史に残る。後任は、「出口政策の出口」を担当することになるはずだ。そんな駅伝の襷のような姿を想像するのは考え過ぎだろうか。

話は変わってこちらは日銀。こちらはつい先ほど、現在の大規模緩和策を継続という結論が出たところ。黒田総裁の記者会見では、出口政策や2%の物価目標の是非を問う質問が多かった。しかるにそれらは想定の範囲内。「出口政策を語るのは時期尚早だが、市場との対話は丁寧にやっていきます」、といった予想通りの回答であった。強いて言えば、テレビ東京の大江真理子キャスターが最後に「最近何か買い物をされましたか?」と尋ねたときは、さすがに場が和んだ。GPS機能付きの腕時計を買われたそうである。

黒田総裁も、来年4月に任期を迎える。次が誰になるか、もちろん黒田再任シナリオも含めて、こちらも視界不良である。次の日銀総裁は、「デフレ脱却」や「物価目標2%」といった課題を引き継ぐことになる。しかるに2018年から先の5年はいかにもしんどそうだ。誰がやるにせよ、東京五輪が行われる2020年以降の日本経済には、いろんな問題が噴き出すことだろう。そして日本銀行のバランスシートは、名目GDP比で100%に近い500兆円にも達しつつある。

日米の金融政策を比べると、アメリカは既に出口政策に向かっているが、日本はまだまだ緩和政策が続く。しかしそれ以上に大きな違いは、双方のトップが「次の人」に託す物語を持っているかどうかであろう。果たして黒田総裁は後任に対して、どんな襷を渡せるのだろうか。

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