石破の乱「成算なき孤独の闘い」が向かう先 「安倍改憲」に反旗だが党内は"石破包囲網"

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首相と石破氏はもともと、「ケミストリーが合わない関係」(自民幹部)とされる。幹事長時代も首相との会食などは極めて少なく、「双方とも腹を割った話し合いは避けてきた」(首相周辺)というのが実態だ。首相が石破氏を幹事長に起用したのは「挙党体制」をアピールする狙いからだった。

首相にとって石破氏は「目の上のたんこぶの存在」(首相周辺)だったわけで、2014年夏の参院選での自民圧勝で1強体制を確立した時点から"石破外し"を画策したとみられている。参院選後、首相は新安保法制実現に向け石破氏に「安保法制担当相」への就任を求めたが、「石破氏が固辞することは織り込み済みだった」(同)とされる。

当時を振り返ると、首相は参院選後の7月下旬、石破氏との会談で安保法制相を打診したが、石破氏は固辞し、結論をお盆明けの8月下旬まで持ち越した。ところが8月上旬に石破氏を支持する「無派閥連絡会」が新潟県湯沢市で開いた夏季研修会の懇親会での石破氏の言動が首相との関係を悪化させた。

首相らを激怒させた「明智光秀も嫌いじゃない」

研修会後の懇親会はカラオケ大会となったが、石破氏が最初に歌ったのは1980年代のアイドル・柏原芳恵の「夏模様」だった。石破氏は学生時代、キャンディーズの熱烈な追っかけファンだったことは広く知られている。その石破氏がキャンディーズでなく柏原芳恵のあまり知られていない曲を歌ったのだ。"意味深"だったのはその歌詞のサビの部分。「『さよなら』 言葉はこれきりですか 『さよなら』 私はふられますか」――。

人事を絡めた首相の変心への恨み言にも聴こえ、伝え聞いた首相サイドは「嫌味が過ぎる」と反発した。

この話にはさらに続きがあった。7月下旬に約束した8月下旬のトップ会談が、首相の広島土砂災害の現地視察で延期された直後の8月25日夜、石破氏は民放ラジオ番組に出演した。そこで、石破氏は「幹事長続投」を強調したが、番組の最後に司会者から「尊敬する歴史上の人物は」と問われると「歴史上の人物で好きなのは(元外相の)小村寿太郎。明智光秀、石田三成も嫌いじゃない」と答えた。

明智光秀は周知の通り、戦国時代の1強だった織田信長に対して謀反を起こし、その「本能寺の変」で信長を非業の死に追い込み、一時的に天下をとった歴史的人物だ。「首相サイドは激怒し首相と石破氏の関係もさらに悪化した」(自民長老)とされる。その後、首相と石破氏は和解し、石破氏も地方創生相就任を受け入れたが、石破氏周辺は「座敷牢に閉じ込められた」と当時を振り返る。

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