鉄道写真家、独立後の「1枚」はこう変わった 「宮仕え」時代とは違うサバイバル仕事術

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ただ、やはりこの1枚だけでは物足りない。そこで今度は木々の間からE6系が飛び出した瞬間を「流し撮り」することにした。流し撮りとは、普段は車両がブレないように高速シャッターを使用するのが定石である鉄道写真だが、あえて低速シャッターを使用し、列車の移動に合わせてカメラを振りながら撮影する手法だ。写真2のように背景は流れて写る一方、カメラの「振り」に同調する車両はきれいに写し止まるので、スピード感を表現できる。

写真2 流し撮りの1枚。フリーになると「自分らしさ」という付加価値が必要(筆者撮影)

この撮影地は周囲が山に囲まれたシチュエーションで、E6系が姿を現すのは木々の間の一瞬だけ。流し撮りをする条件としてはやや成功率が低い条件だが、普段どおり無難な写真を撮り続けているのは少々面白くない。最近は写真素材サイトの普及により、商業写真の価格が非常に低くなっている。よく見ればクオリティに差はあるものの、一見同じような写真なら安いほうに需要が流れるのは当たり前なので、少しでも「自分ならでは」のエッセンスを加えた写真でないと、この先写真家として生き残るのはしんどくなってくるのではないかと最近強く感じる。

一期一会、次回も同じ状況とは限らない

さて何本か挑戦して流し撮りの1枚を決めることができたが、こまちは基本的に1時間に1本のペースで運転されている。上り下りを合わせると1時間に2本撮影できる計算だが、言い換えると1時間に2回しかチャンスがないわけだ。

この流し撮りをするために同じ現場に3時間いたのだが、成功率の低い流し撮りにこだわることなく、場所を移動してほかのカットを撮ったほうが効率的だし、これまではそういう写真の撮り方をしてきた。しかし、フリーランスとなった今は納得できるまで粘り、時間をかけて撮影することが多い。同じ季節は1年後に巡ってくるが、その時また同じ場所に来ることができるかどうかわからないし、木々も成長し撮影地の状況は日々変化している。そう考えると一期一会。その場所で納得して撮影を終えたいのだ。

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