HUNTER×HUNTERが休載がちでも人気の理由 不定期掲載はもはやこの作品の芸風となった

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不定期連載という点を除いてもHUNTER×HUNTERは週刊少年雑誌掲載の漫画としてはあまりにも「常識外れ」な部分が多い。何よりも異質なのが「雑誌掲載時のクオリティ」だ。一時期、HUNTER×HUNTERは下書きとすら呼べないほどのラフ画を載せていたことがある。単行本では修正されたものの、『こんな状態で載せていいのか』と騒然とした。

もともと冨樫氏の画力は非常に高く、印象的なシーンや表情を描くのはお手の物だ。だからこそ、手抜きにしか見えない、背景もまともに描いていない未完成の状態で掲載されたことは読者に衝撃を与えた。それも一度や二度ではなく、何度も繰り返されたのだ。

他の漫画が同じことをすれば一発で打ち切りになるであろう無茶を何度もやってきて、それでも崩れない人気。それを支えるのは「バトル・ミステリ・ゲームのハイブリッド」と「休載さえも楽しみに変えたブランディング」にある。

能力バトルと先が読めないミステリの融合

HUNTER×HUNTERは「バトルマンガ」に分類される作品だ。実際、話の多くがバトルとその準備に割かれている。ただ、そのバトルの描き方には他の少年漫画とは少々異なる点がある。それはふんだんに盛りこまれている「心理戦」の描写だ。

登場キャラクターは一癖も二癖もあり、バトル能力以上に心の底が知れない。バトルは能力をぶつけ合う派手な場面はもちろんあるが、それと同量、あるいはそれ以上に心理描写にページが割かれている。単純な力比べになることはほとんどなく、たいていが絡め手や心理の読み合いによる戦いとなる。

読者はバトル要素とミステリ要素の両方を楽しめる。さらに登場キャラクターが多く、初期からいたキャラクターがあっさり死亡することもよくある。誰が死んで誰が生き残るのか、パッと見ただけではわからない。そのため読者はつねに頭を働かせ、次の展開を予想しながら読み進めることになる。

冨樫ファンの間で「名作」と呼ばれる、同氏が週刊少年ジャンプで1995~1999年に連載していた『レベルE』には「あいつの場合に限ってつねに最悪のケースを想定しろ 奴は必ずその少し斜め上を行く」という台詞が出てくるが、HUNTER×HUNTERは最悪とは言わずとも斜め上の展開が来ることが多いため、その「読めなさ」を読者は楽しんでいる節がある。この状態で連載が中断すると、読者はミステリの種明かしを待つ状態になり、それぞれ考察を繰り広げて楽しむことができる。

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