ビール値上げの陰に潜む「販売奨励金」の正体 不当廉売の源泉、いたちごっこの歴史を追う

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販売奨励金とも訳されるリベートは、販売を増やしてくれる小売店へ、メーカーが払うお礼だ。

ビールの商流を簡単にいえば、ビール各社→卸→小売となる。ビール各社は卸にリベートを払い、そしてそれが、小売店の値下げの原資として使われる。リベートはビールだけの事象ではない。ただ、酒類の販売が公正取引委員会(公取委)が不当廉売で注意する案件でもっとも多く、これまで注目を浴びてきた。

これがなかなか理解されない。批判の多くが「それなら最初から値引きして販売しろよ」というものだ。ただ、このリベート制度は、メーカーと小売りの双方にメリットがあった。

メーカーのメリットとしては、

 ・表面上の販売価格を値崩れさせることなく、協力度に応じて小売店にインセンティブを与えることができる

小売店のメリットとしては、

・返品制度を崩さずに値下げ原資を有することができる

後者は説明が必要だろう。というのも、日本では、買い取りではなく、返品が一般的だ。文字どおり、売れなかった商品を戻すことだ。これはボリュームディスカウントができない難しさがある。だから事後的に支払うほうが、メリットはある。

リベート排除の歴史

一方、このリベートこそが不当廉売の源泉になっている。だから、これまでも公取委は何度も警告を発してきた。有名なのは2012年に公取委が、三菱食品、伊藤忠食品、日本酒類販売の3社に警告したものだ。3社はイオンに赤字でビールを販売していた。3社には、ビール各社からのリベートがあり、それを含めると赤字ではなかったものの、仕入れ単価のみを見ると赤字販売をしていた。公取委は、リベートをビール収支に入れてはいけないとした。

ただ、その際には、イオンは3社の仕入れ価格を知り得たわけではないし、イオンが強制的に廉価に誘導したわけでもなかった。なにより、低価格販売を進めるイオンにしてみると、別に原材料が高騰しているわけではないのにビールの価格を上げることは、消費者に説明できないとして突っぱねた。

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