外資系と日系のエクセルはこんなにも違う ブランドと生産性を支える「ルールと仕組み」

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外資系企業、なかでもアメリカという国は、わりと個性的で自由、ルールに縛られないというイメージがあるかもしれません。アメリカの投資銀行においては、そのイメージは間違っています。資料作成におけるルールは、とても厳格なのです。エクセル表のフォント1つについてもすべてルールが決まっており、社員はそのルールを守ることが強制されます。

投資銀行にとっては、その資料そのものが「企業ブランド」になります。投資銀行ブランドにふさわしいデザインが全社的に設定され、そのデザインルールを守った資料でなければ、クライアントからの信頼を失ってしまうリスクがあります。

また、見やすいエクセルは、それだけで業務効率化につながります。見にくいエクセルをチームで共有していると、計算ミスが増えたり、数字が理解できなかったり、トラブルが絶えません。見やすいフォーマットのルール化は、このようなムダなトラブルをなくすための手段のひとつなのです。

一方、日系の金融機関の場合、資料作成にはあまりルールがない印象です。私はさまざまな企業でエクセル、パワーポイントを使った研修を行いますが、まだ日本企業で「ウチはこういうフォーマットで統一しているので、研修もそのフォーマットを使って実施してください」といったリクエストをいただいたことがありません。むしろ、「この研修の機会に、社内でフォーマットのルール化を図ってコミュニケーションをスムーズにできるようにしたいのです」といったご相談のほうが多いです。

フォーマットのルール化が進んでいなくても「個人」の力により、丁寧できれいなエクセルやパワーポイントの資料が“できてしまっている”のが、日本企業の現状と言えるでしょう。それだけ、日本のビジネスパーソンの能力が高いということですが、一方で、ルール化しないと、品質が個人の能力に依存してしまうというデメリットがあります。

グローバル企業の場合、多種多様な人種が働いていますから、彼らが好き勝手なフォーマットで作成すると、個人差が大きすぎて、大変見にくい資料ばかりになってしまう。だからこそグローバル企業は、「いちいち」ルール化することで、その個人差を乗り越えているのではないかと思います。

美しすぎるエクセルを支える「仕組み」

では、このグローバル投資銀行の美しいエクセルはどのように作られているのか。すべてのセルをいちいちフォントを変えて、タテ幅を変えて、罫線を引いて……というようなことは、実は誰もしていません。これらはすべてを自動化できるツールがあり、それぞれの投資銀行が独自で開発しています。投資銀行マン(通称バンカー)は、見にくい表をワンクリックで「投資銀行らしい」エクセル表に変えることができるわけです。これはパワーポイントも同様です。

フォーマットに限らず、ショートカットも同様です。たとえば私の書籍では、エクセルは「ベタ打ちの数字=青」と「計算式=黒」の数字色を分けることを推奨しています。色を変えるショートカットは、Alt → H → F → Cと4手ですが、少し長いです。投資銀行では、なんと独自でショートカットを開発して(!)、さらに少ない手数で色を変えるようにしています。このような細かい業務効率の改善の積み重ねが、少ないメンバーでの美しく正確なエクセルを支えているわけです。

一方、日本の金融機関でこのような仕組み化を進めているところは少ないと思います。多くの場合、社員一人ひとりが「気合いと根性」で資料作成を進めているケースも見受けられます。

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