「ウェブの漫画が紙を食う」時代は終わった 「少年ジャンプ+」などひしめく漫画アプリ

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同社は基本的に作家に干渉しないスタイルを貫いている。

「営利主義に走るのではなく、描き手の自由度の高い発表の場であることを最優先しています。運営も参加者も、イベントを成長させコンテンツを生むことを共通の目的に掲げる、偉大な先人『コミックマーケット』に倣ってのことです。立ち上げ当初の反響から、私たちが失敗さえしなければ、未来の『ONE PIECE』や『NARUTO-ナルト-』を作る新しい才能は、ここから生まれるという確信がありました。最初の2年は、他の事業で稼いだ収益を運営に充てました」(永田さん)

運営は軌道に乗り、サービス開始から今年で10年を迎える。昨年は出版社と共同でレーベルを立ち上げ、コミックスを刊行した。オタクの社会人男女の恋愛を描いた『ヲタクに恋は難しい』は話題を呼び、累計発行部数は既刊3巻で電子版販売分とあわせ、300万部を突破した。

電子と紙は共存できる

ジュンク堂書店池袋本店の田中香織さんは、「漫画はコミュニケーションツール、共通言語になった」と語る(撮影/品田裕美)

漫画の発表媒体数と作品が増えれば、刊行される単行本も増える。単行本の年間刊行点数は1万点前後。ひと月あたり、800~900作品もの新刊が発売される。

現実の書店の売り場は、ウェブとは違い、スペースに限りがある。何をどう並べるかも売り場の課題だ。ジュンク堂書店池袋本店では、多くの作品にチャンスをという視点から、人気作品も極端な多面展開はしない。

コミック担当の田中香織さんは、この10年来の客の変化に驚いている。

「売り場で『これ読んだ?』『おもしろいよ』というお客様同士の会話を聞く機会が増えました。好きなタイトルを、薦め合っている印象です。漫画がこれほど市民権を得るとは、思っていませんでした」

漫画原作のドラマや映画、パチンコやパチスロとのコラボが増えた。

露出が増えれば問い合わせも増え、単行本の売り上げも伸びるが、露出の機会が終われば一気に売り上げが落ち込んだ時期もある。「作品が消費されているのでは」と懸念したこともあったが、近年はファンを得て、そのまま売れ続けるケースが多い。作品が多くの人に読まれることの力を、売りの現場で感じている。

おもしろい作品を見いだすべく自身もアンテナを張っているが、ファンの声に背中を押されることもしばしばだ。

多くの作品の中から、どの作品を人に薦めたいか。田中さんが実行委員を務めるマンガ大賞は、そんなコンセプトから生まれた。今年で10年目。既刊8巻までの作品を、企業等の協賛を得ずに発信する。いわば、漫画読みのための、目利きの賞だ。今年は『響 小説家になる方法』(小学館)が大賞を受賞。20倍以上に売り上げを伸ばし、既刊6巻で累計発行部数80万部を突破した。

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