シャネル社長が「豊洲移転」に異議唱える理由 銀座の魅力は築地によって保たれている

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築地市場を改築する必要は確かにあります。それならすばらしい改築をしようではありませんか。現在起きている騒動を乗り越えて、築地を街の中心に据えようという大胆な建築プロジェクトを実現しようではありませんか。新しい建築は築地市場を日本の多様な食を提示する屋台村とひとつにすることもできます。

きっとたくさんの料理人がこぞって出店したがるでしょう。また、世界中から若い料理人を呼べるような料理学校を建ててもいいかもしれません。日本食は現在、世界中で愛されていますからね。国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の無形文化遺産のリストに日本食が追加されたことも忘れてはいけません。築地を正当に導くことによって、東京に住む未来の世代の人たちや世界にとって、築地が最高のレガシーとなるときがくるでしょう。

東京も「人間的な都市」になれる

――フランス、とりわけパリは東京の参考になると思いますか。

もちろんだ。アーバニズムはフランスにとっては昔からの課題です。東京にはまだ、地元の人の暮らしが垣間見られる「人間的な都市」になれるチャンスがあると思う。実はこうした風景は、東アジアでは珍しくなってきているのです。市場や商店街、お祭りといったものは、日本の伝統的なライフスタイルの一部。そして、築地はまさにそのライフスタイルを具現化したものといえます。

パリ中央市場(レ・アール)は、約50年前の決定により醜い商業施設に建て替えられてしまいました(現在、増築中)が、いまだったらあんな決定はしなかったでしょう。昨今、フランスでも都会の人たちは、田舎のものに価値を見いだし、つながりを求めるようになっている。実際、パリでいま最も人気が高く、不動産価格的にも価値の高い地区は、本物の市場があるようなところです。

いまはフランスや日本よりも経済的には後進であるタイのような国でさえ、ローカル市場を守る活動をしています。繰り返しになりますが、築地市場を商業施設やスタジアムに建て替える案は日本にとってプラスにはなりません。これは単なる安心安全だけにとどまらない、より大きな問題なのです。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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