疑問点が多い、自民党の”改憲案” 自民党と麻生氏の本音

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「ナチスがワイマール憲法をそっと変えたように、自民党もやればできるんだ」「あの手口、学んだらどうか」と述べた7月29日の麻生発言の余波が収まらない。実は麻生氏は同時に「俺たちは自民党憲法改正草案をつくった。今回の憲法の話も狂騒の中でやってほしくない」「静かにやろうや」と語っている。憲法改正では、今後、議論が沸騰する展開は避け、自民党改正草案をそっと通すという形に持っていきたいと考えているようだ。

一方、改憲に意欲的な安倍首相は、現憲法の改正案発議要件の壁があるため、改憲案の中身については、表向き「他の改憲勢力との協議」を重視し、「実現可能な条項から逐条で検討」という構えだ。だが、それは壁を突破するための作戦で、ぽろりと「自民党草案で」と漏らした麻生氏と同じく、本音は自民党草案の実現では、という疑念は消えない。

その自民党草案は、①「日本国民は」で始まる前文を「日本国は」で始まる形に、②天皇を元首に、③国旗・国歌の規定を新設、④第9条2項で「自衛権の発動」を明文化、⑤国防軍の規定を追加、⑥「環境保全の責務」の規定を新設、⑦「緊急事態」の章を新設、⑨改正の発議要件を「衆参総議員の過半数」に変更、といった点が大きな変更部分だ。

「自民党はいろんな意見を聞き、議論を重ねて憲法草案をつくった」と麻生氏は胸を張るが、「素朴な疑問」がいくつもある。「日本国民」よりも「日本国」を重視する前文になぜ変えるのか、国旗・国歌の規定をなぜ「第1章 天皇」に入れるのか、基本的人権の本質を謳った第97条をなぜ全面削除するのか、現憲法の欠陥という指摘が多い統治システムの見直しになぜ手を付けないのか。他にも疑問点は多く、全体として生煮えの感が強い。

そのままでは国会にも国民投票にもかけられない叩き台の素案と言わざるを得ないが、「今後の議論、協議、検討」を容認する安倍首相は、去年4月に谷垣総裁時代に策定された自民党草案を「改憲案の決定版」とは見ていないのかもしれない。それなら、改憲が宿願の安倍首相は、まず自身の「改憲案の決定版」を提示すべきではないか。

(撮影:尾形文繁)
 

塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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