フリーゲージトレイン「試乗」で見えた問題点 2022年開業に向け車両の検証作業は佳境に

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その試験では、高速回転中に横から強制的に力を加えても、その横揺れがすぐに収まれば安定した状態と言え、一般の新幹線では400km/hでも安定している。しかし、FGTにおいては台車左右のヨーダンパ(横揺れの抑止装置)計4本のうち1本を外したところ、280km/hで台車の横揺れが増幅する状態となった。このため、耐久走行試験に入る前に影響について詳細に検討する必要があるとしている。したがって、昨年12月からの検証走行試験でモニタリングをしており、これからの鉄道総研の台車高速回転試験において再び試験を行い、詳細な検証が行われる。

また、FGTの開発では、最後に経済性が大きな課題として残されている。FGTは特殊な機構を備えているほか、新在共用走行のために運転保安設備を2系統備え、それらの分の重量増を抑制するために、軽量化対策に高価な部品を用いている。現状ではこの対策により、270km/h走行を行う一般の新幹線電車並みの重量を実現している。

また、軌間可変台車は可動部を有するため、定期的な点検箇所が増加し、部品交換も不可欠である。これらのため車両新造コストに加えて、メンテナンスコストも増大せざるをえない。技術評価委員会では今回の不具合を踏まえて車軸の定期的交換を想定し、一般の新幹線と経済性の比較を行った結果、車軸を240万kmごとに交換する場合で一般の新幹線の2.5倍程度、台車検査周期の60万kmで交換する場合は3倍程度になると試算された。

軌間幅の狭さが問題に

実際の運営事業者となるJR九州は、今般の試験走行再開前の2016年11月に「現実的なコスト水準を大幅に超えている」として、高騰したコスト面の課題が解消されなければ FGTの導入は困難との見解を示す状況にある。

FGTの導入が予定される九州新幹線西九州ルートでは、博多―長崎間のうち、博多―新鳥栖間は現在の九州新幹線鹿児島ルートを使用、新鳥栖―武雄温泉間は長崎本線および佐世保線を改良した在来線、武雄温泉―長崎間は現在建設中のフル規格新幹線の新線となる。開業は2022年度末を予定していたが、政府与党申合せで可能な限り早めることとなり、今は2022年度とされる。しかし、FGTの車両開発が遅れたため、開業に間に合わない状態となった。

そこで2022年度は暫定開業とし、武雄温泉駅を接続駅として、博多―武雄温泉間の在来線特急と武雄温泉―長崎間の新幹線をホーム対面で乗り継ぐ方式にすることが、2016年3月に合意された。実際のFGTの営業開始は、この暫定開業の後、2025年度と見込まれている。FGTは九州新幹線西九州ルートのほか、北陸新幹線敦賀以西への導入も考えられており、現在は今年6月の技術評価委員会に向け、待ったなしの検証作業に迫られている。

なお、軌間可変台車を備えた列車としては、昔からスペインの「タルゴ」が有名である。1969年から動力を持たない客車が存在し、機関車を付け替えて異軌間の直通運行をしていたが、高速新線の整備・進展にあわせて2006年には電車方式(動力台車方式)も登場している。すなわち、すでに10年の実績がある中、なぜ日本では実現できないかという疑問がある。

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これは、実は日本の在来線が1067mm狭軌であることが大きな足枷となっている。すなわち、スペインは1668mmの広軌在来線と1435mm標準軌高速新線の直通運転であり、日本の場合に比して車輪間に大きなスペースがある。スペインの動力台車は車輪直接駆動・独立車輪方式を採用しており、軌間可変台車には同方式が有利なこともわかっている。しかし、狭軌の車輪の間に、その複雑な機構やブレーキ装置を収めることが非常に困難だった。このため1次車の段階から同方式を断念し、平行カルダン方式で開発が進められてきた。この日本の宿命的制約から、現在までの長期の研究開発期間が費やされているのである。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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