東武の新型車両70000系は何が画期的なのか 6月から東武スカイツリーラインにお目見え

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運転台の機器類やレイアウトはメトロ13000系と統一されている(撮影:尾形文繁)

ほかにも多くのメリットがある。たとえば乗務員の訓練に必要な期間を短縮できる。運転操作に関する機器類が同一のため、メトロ13000系を運転できる乗務員であれば、70000系もほぼ同様に運転できるのだ。

また、万が一相手先の路線内で車両にトラブルが発生しても、機器類が両社で共通のため緊急対応をしやすいというメリットもある。

すべてを共通化したわけではない

さまざまな部分をメトロの新型車と共通化した70000系。だが、すべてを完全に統一したわけではない。

70000系(上)とメトロ13000系(下)のインテリア。色彩以外にも違いがある(撮影:尾形文繁)

「設計思想が違う会社同士が同じ仕様で車両をつくるとなると、どこで妥結点を見いだすかという点もある」と川上課長。ポリシーの違いや伝統が設計の違いに表れているのだ。

わかりやすいのは照明。メトロ13000系は全体を間接照明とし、さらにガラス製の荷棚に入った模様を光らせるという凝った照明を採用したが、70000系はシンプルな直接照明で、照明機器の構造が異なる。メトロが「柔らかな光」を狙ったのに対し、東武は光沢のある白系の壁面などと合わせ「シンプルに明るく、透明感を出そうという狙い」(川上課長)だ。

大きく異なっているのは「ドアの開閉システム」だ。乗客が気付くことはほとんどなさそうな部分だが、メトロ13000系は空気圧によって開閉する仕組みなのに対し、70000系は電気式を採用している。東武は2005年に導入した50000系以降、通勤電車のドア開閉装置は電気式で統一しているが、メトロは全車が空気式だという。両社とも、自社の既存車両で実績あるシステムに揃えた結果、機構が異なっているのだ。

一方、これまで備えていなかった機能をお互いに取り入れた例もある。パンタグラフに関する機器類がその例だ。

これまで東武の車両は、パンタグラフを個別に上げる場合、車外にあるひもを引っ張って操作しなければならなかった。だが、70000系では車内の配電盤にスイッチを設置し、車外に出ることなく操作が可能になった。これはメトロの車両では従来からあった機能を取り入れたものだ。逆にメトロ13000系は、東武の車両が設置している、雪が積もった場合でもパンタグラフを上げることのできる「強制上昇装置」を採用した。両社が培ってきた技術の「相互乗り入れ」といえるだろう。

「お互いに『いいとこ取り』をした車両」(川上課長)という70000系とメトロ13000系。今回の仕様共通化については「たまたま車両の更新計画のタイミングが合っていたからできた」というのが東武とメトロの共通した回答。だが、コストダウンや運用面、メンテナンスなどの効率性などを考えれば、相互乗り入れを行なう鉄道同士で同様のケースが増えてもおかしくなさそうだ。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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