乙武洋匡「日本には村の掟がまだ残っている」 中川淳一郎と語る競争、結婚、不倫、差別

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中川:圧倒的に有利な大学時代の就活。で、2回目は広告代理店同士の競合プレゼン。たぶん、電通以外はあまり怖くないんですよ。男で、博報堂。強いなと思いますね。5社競合とかで「電通は入っている? 今回」。で、「いない、あっ、じゃあ余裕かな」って。

乙武:それくらい電通と博報堂の力って圧倒的なんですね。

中川:でも、結局その2回でしかなくて。それって、先輩とかが築き上げた、強者の組織にいるから強いだけなんですよ。自分じゃないんですよ。

乙武:自分じゃなく、組織の力、看板の力ですね。

中川:はい。で、個人になってからは、1回も強いと思ったことないし、女性のライターで腕の立つ人には、「この人すげえ怖い」と思ってるっていうのは、しょっちゅうですよね。

もう競争をやめてもいいんじゃないの

河崎:私は今となってはむしろ、自分が「女でよかった」と思うことのほうが多いです。1973年生まれ、40代ですけれど、何をやっても今は上り調子にしかならないからですね。つまり、女性というのはみんないったんは悔しい思いをさせられていたわけじゃないですか。女性全体が悔しい思いをしているっていう、通底した思いの中で女たちが数十年過ごしてきた社会、そういう前提があったので。

乙武:あとは上るだけだ、と。

河崎:その中で今ちょうど、私を含む団塊ジュニアの女はとにかくいちばん分厚い層、ボリュームゾーンなので、一気にここで花開こうと思えば、一斉に集団で花開けるわけですよ。一斉に赤信号を渡れちゃう。だから私は「女でよかった」と思う。私、今自分が男で、皆さんと同じ世代だったら、つらいと思います。身動きの取れない組織でひたすら垂直方向に出世する以外は全部「負け」、しかも家庭でも「使えない」と憎まれ、出口なんか見えないのに全部背負わなきゃいけないから。

中川:「男を降りる」という話ですね。競争至上主義で人数の多い人たちが、「そろそろ、もう競争をやめてもいいんじゃないの?」っていう話だと思うんですね。銀行なんかは非常に顕著で、何歳までにどこかの支店長にならなかったら、子会社出向が待っている。これをずっと男たちはやってきたけれど、そんな変な競争をしなくちゃいけないのは、俺たちが最後の世代かもしれないですね。

乙武:私の場合、どうしても身体的条件が違いすぎるので、小さい頃から周りのクラスメートとフェアな競争ができないことのほうが多かったんですよね。だから、先ほど河崎さんがおっしゃっていた、この世代特有の現在置かれている状況みたいなものが、あまりピンと来ないんです。確かに一般企業に就職した同世代の様子を見ていると、「競争社会の成れの果て」に疲れ切っているという印象を受けなくもないですけど、私の場合は就職もしていないので、出世競争みたいなものをしたことがないし、そもそも「自分の人生は、ほかの人の物差しは当てはまらないんだ」という感覚でここまで生きてきたので、何というか、「そろそろ曲がり角だよね」という感覚をあまり感じていないんですよね。まあ、個人的には「曲がり角」どころか「どん底」を味わっていますけど(笑)。

河崎 環 フリーライター、コラムニスト

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かわさき たまき / Tamaki Kawasaki

1973年京都生まれ、神奈川県育ち。桜蔭高校から親の転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどで執筆・出演多数。多岐にわたる分野での記事・コラム執筆をつづけている。子どもは、長女、長男の2人。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。

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