乙武洋匡「日本には村の掟がまだ残っている」 中川淳一郎と語る競争、結婚、不倫、差別

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中川:で、これはポリコレの集団なんです。たとえば「碧志摩(あおしま)メグ」っていう、伊勢志摩の海女さんのキャラクターとか、東京メトロの「東京よりみちか」の「駅乃みちか」だとか、全部「いかーん」って一斉にクレームを入れる。でも実は、男のことを逆差別している。

乙武:なるほど。

中川:「男は強者だ」というのが、ポリコレを行使する根拠になっている。キンタマですよ、俺たちの呼び名。「キンタマ潰しをしなくちゃいけない」なんて言っている。

河崎:なぜそんなことが可能かというと、やはり「男性は女性に比して強者である」という思い込みがあるからですね。

中川:そう、そう。

河崎:今となってはもう違うんだけれども、「男は自分たちよりも強いから、責めていいのである」。しかも「強者を責めた自分たちを責められることはない」。彼女たちは、そういう保護シールドの中にいる、つもりでいる。

ポリコレの押し付けは窮屈

乙武:さっきの河崎さんのご指摘に戻ると、私はポリコレを主張される方々と、もともと理想とする社会は一緒だと思うんですよ。つまり、差別のない、多様性がきちんと確保された社会を望むという意味では、私も、ポリコレを主張される方々も、変わらないと思っているんです。あとは、「じゃあ、それを実現するためのアプローチとしては、どちらがいいんだっけ?」という考えの違いで。

彼らは、あくまでもとことん誰にでもポリコレを求めることが、その多様性の実現につながると信じて疑っていないから、それを先鋭化させて、いろんな方に求めるわけですよね。で、私は、それをやっちゃったら、かえって多様性嫌いが広まって、今のアメリカみたいなことになると思っているので、私はそれをやりたくない。それぞれが自身の判断で言葉を選んで、目の前で嫌なことを言われたら「私は、その言葉は嫌です」と抗議する。そうしたやり取りを積み重ねていくほうが、結果的に多様性が確保されるのではないかと思っているので、私は彼らのような手法は使わない。そういうアプローチの違いだと思うんですよね。

中川:そう、言葉というものは人間同士の間で使われ方が決まる。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で主人公のマーティがキレる一言は「チキン」です。たぶんそれは、マーティと付き合っている友達は、言っちゃいけない言葉なんですよ。それと同様に、俺も「誰?」っていう言葉がすごく嫌いなんですよね。理由は自分のコンプレックス。テレビを観ていると、知らない識者みたいな人が出てくるわけですよ。「誰?」って言うわけじゃないですか。自分も同じような立場なんですね。俺はネットの中では、編集業界ではみんな知ってくれているけど、テレビに出ちゃうと「誰?」なんですよ。それがわかっているから俺は、「俺の前で誰?って言わないでくれ」って言うんですよね。

乙武:なるほど。

中川:でも、「誰?」っていう言葉に差別されたと感じて傷つく人なんて、世の中には1%もいないわけで。だからそれは、個人同士の話。乙武さんのさっきからの主張と一緒、完璧に一緒なんですね。

河崎:言葉狩りが結果的に多様性嫌いを広めてしまって、それが現在のアメリカ的な、あるいは欧州でもやっているような反動的ナショナリズムになるのかと。行き過ぎたポリコレのバックラッシュがポピュリズムであり、その先のポスト・トゥルースやオルタナファクトへと……関連性がありますか?

乙武:私はあると思いますね。やっぱり、多様性を実現したいと思っている私でさえ、あのポリコレ、ポリコレという押し付けは窮屈に感じますし、これが多様性というところに思いのない、アンテナを張っていない方からしたら、「めんどくせえ、こいつら」としか思われないと思うんです。

これは、私にとっての出だしにも結び付く問題なんですよね。もともと日本における障害者運動というものは、抗議や主張というものがベースにあった。たとえばわかりやすいところで言うと、エレベーターが付いていない地下鉄の駅に、車いす10台で押しかけていって「対応しろ」と圧力をかける。駅員さんが、何度も何度も汗を流しながら、人力で抱える。これを10回繰り返さなきゃいけない。で、大変だからエレベーターを付けようとなるわけです。私自身はこれに対して、そういう方々の活動があったからこそ、私たち車椅子ユーザーを取り巻く環境というのが進んできたという部分は否定できないので、非常にリスペクトもしていますし、感謝もしているんです。

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