シリア難民「児童労働」、その残酷すぎる現実 トルコでは子どもたちにしわ寄せが来ている

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支援を通じて大好きになったソーセージを首に巻く子ども(撮影:大野木雄樹)

両親に十分な働き口がない一方、児童労働が行われている現状の一つとして、大野木氏は綿花畑で働く子どもの様子を説明した。パルシックが支援活動をしているシャンルウルファ県はシリアとの国境から近く、一面が農業地帯だ。ここでシリア難民はあちこちに分かれて暮らしており、ほかの世帯との交流も少ない。子どもは学校に行かずに綿花の摘み取りをしたり、家畜の世話をしたりして一家を支えている。

パルシックは、ほかの団体が活動していない都市郊外や農村部で重点的に活動している。これまでに約4200世帯(約2万3000人)に缶詰やコメ、小麦粉などの食糧を届けてきた。現物支給の後は、「Eバウチャーカード」と呼ぶプリペイド方式の電子マネーを1世帯当たり1枚配布し、1人について1カ月62リラ(2000円弱)を振り込む方式に切り替えた。難民はカードを利用して、町中のスーパーマーケットなどで、必要とする商品を自分で選んで購入することができる。「家族で買い物に行くことを楽しみにしている子どもが多い」と大野木氏は笑顔で話す。

雪の中でも素足の子どもが多い。トルコ・アクサライ県にて(撮影:大野木雄樹)

2016年12月から今年1月にかけて、パルシックではトルコ内陸部のアクサライ県で約1700世帯(約9200人)に「越冬支援」を実施した。ここでは、何もない空き地のような場所で41世帯が粗末なテントを張って暮らしていた。「この地域で暮らす難民はこれまで一度も支援を受けたことがなった。ストーブにくべるまきやブルーシートなどを配布し、とても喜ばれた」(大野木氏)。

生活の多くの場面で支援

パルシックの活動の特徴として、生活の幅広い場面への関与がある。食糧・衛生用品の提供のみならず、子どもに語学やいろいろな遊びを教えたり、家庭菜園作りを手伝ったりしている。そうした中で、病状が重く手術が必要な難民を見つけた場合には医療支援の団体につないだりもしている。中心メンバーは大野木氏ら日本人3人およびシリア人スタッフ4人。パートナー団体のシリア人スタッフ8人と連携している。

家庭訪問で子どもたちと遊ぶ機会もある。トルコ・シャンルウルファ市にて(撮影:大野木雄樹)

シリア和平への道のりは遠く、今も激烈な戦闘が続いている。国際社会の難民への対応も厳しくなっている。ボランティア団体への支援も先細りになりつつあるという。しかし、今なお多くの難民が継続的な支援を必要としている。

大野木氏は、「やがてはシリアでの戦争が終わり、NGO(非政府組織)が入ることができるようになれば、現地で復興にかかわっていきたい」と将来への思いを語った。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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