ANA、メキシコ新路線に「トランプリスク」の影 「史上最長」の路線には試練が待ち受ける

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対するアエロメヒコは乗り継ぎが便利だ。メキシコシティに到着すると同じターミナルの中で国内46都市への便に乗り継げる。乗り継ぎ時間も短く抑えられる。ANAとは対照的に、成田発の旅客のうち7割はほかの都市へ向かう便に乗り継ぐ。

アエロメヒコの加藤欣弥・日本支社長は「ビジネス需要は勢いがある。3月からは毎日の運航になるので、これまで米国から他社で乗り継いでいた客も取り込んでいきたい」と話す。メキシコシティ空港では通訳ボランティアを配置したほか、日本語の案内表示も設けるなど、日本人対応を強化中だ。

同社の成田路線の搭乗率は直近で9割で、昨年からほとんど満席の状態が続いている。実は日本人は乗客の6割ほどで、残りの4割はメキシコ国内や中南米からの訪日客。メキシコシティをハブ空港にしている強みも表われているといえそうだ。

観光需要の盛り上げが必須

とはいえ加藤支社長が「何よりも大きいリスク」と表現するのが、ANAの就航により成田―メキシコシティ線の供給座席数が年間の日本人渡航者数を超えてしまうことだ。アエロメヒコとANAの座席数は年間15万ほどになる見込みだが、2016年の渡航者数は約13万人。しかもこの数字には在外日本人も含まれている。「新たな需要を喚起しなければならない」(加藤支社長)が、ビジネスの需要は爆発的に増やせるものではない。

そこでターゲットとなるのが、観光需要である。リゾート都市のカンクンが有名だが、メキシコには34の世界遺産があり、世界で7番目。古代マヤ文明やアステカ文明の遺跡が数多く残る。

ANAグループの旅行会社、ANAセールスではメキシコシティ周辺の観光を中心としたツアーを組み需要喚起を図っている。アエロメヒコの場合は中南米各国にも乗り入れており、キューバやペルーといった国々への旅行客も取り込みたい考えだ。

渡航者数の数字からもわかるとおり、メキシコはまだまだ身近な国とはいえない。ANAの就航によって市場は盛り上がるのか。それとも価格競争で疲弊するのか。トランプリスクもちらつく中で、試行錯誤は続きそうだ。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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