「銘柄鶏」と「国産若どり」の違いに基準はない 「逆偽装」して出荷する場合も

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ただし、地鶏にもいろいろあるので、どんな地鶏肉でもおいしいとは言えない。JASにおける地鶏の定義では在来種の血を最低50%は引いていなければならないが、ここをどう考えるかでかなり地鶏肉の味の評価が変わる。ビジネスとしての効率を考えるなら、残り50%は成長の早いブロイラー品種を掛け合わせれば、残り50%の在来種の性質をカバーし、短期間に肉がたくさんとれる地鶏品種になることもある。現在、地鶏肉のシェアの中で上位を占めるものはこのパターンが多いのだが、シェア上位の理由には、地鶏肉の基準である75日以上をクリアしつつも、比較的短期に出荷するため、価格を安くできるからではないかと思う。

一方、味わいや食感を重視した地鶏品種には、在来種と在来種を掛け合わせ(つまり100%在来種)て品種を生み出しているものもある。有名なものでいえば比内地鶏や名古屋コーチンが在来種100%である。この場合、どうしても成長に時間がかかるため、十分な味わいと肉の量が確保できるまでに170日程度かけることもある。そうなるとどうしても、国産若どりに比べ3~4倍の価格にはなってしまう。こうしたことも加味してそれぞれの地鶏を評価しなければ、フェアではないだろう。

ただ、地鶏のほうが確実においしいと言えるかどうかは、人の嗜好にもよる。筆者はある大学でフードコーディネート実習の講義を担当しており、そこでさまざまな食材の食べ比べを実施している。その中で鶏肉を取り上げ、国産若どりと地鶏のモモ肉を焼いて食べ比べをした。

学生全員が地鶏の味わいに感動するだろうと思っていたのだが、実際には焼きながら立ちのぼる地鶏の香りに「なんか、野生っぽいにおいがします」とまゆをひそめる学生がいる。試食をすると「これ、味が濃すぎて嫌です」という反応もあった。結果、7割程度の学生が国産若どりのほうを好むという意見になり、呆然としてしまった。よく考えてみたら、20歳前後の彼らは、幼い頃から外食やコンビニで食べている鶏肉のほとんどが若どりなのだから、その味に慣れてしまっているのだ。

ただしその翌年、また違う地鶏品種で食べ比べをしたところ、今度は地鶏肉のほうを好む学生が7割以上となり、逆転した。このように、味覚は人それぞれなので、優劣をつけることは難しい。

鶏肉のかしこい買い方

フライパンやホットプレートで焼いて食べ比べるのがお勧め(筆者撮影)

2回にわたって日本で生産される鶏肉についての概要をみてきた。国産若どり、銘柄鶏、地鶏のそれぞれにおいて、鶏の品種と餌、飼育期間による味・価格の違いがあることがおわかりいただけたと思う。したがって、どんな鶏肉料理を食べたいかによって買い方も変わる。 

タレをしっかりしみ込ませて唐揚げにしたり、とにかく軟らかく仕上げたいという場合は、国産若どりを選べばいいだろう。逆に、肉そのものの味わいを大切にしたかったり、軟らかさよりもかみごたえのある肉を楽しみたいならば、少々張り込んでも地鶏肉を選んでいただきたいところだ。いつもの若どりに飽きて、ちょっと目新しい鶏肉がいいということなら、買ったことのない銘柄鶏に手を伸ばしてみるのもいいだろう。その際は、その銘柄鶏がどんなものなのかをインターネットで調べてみるとよい。品種や餌、飼育期間に対する取り組みにピンとくるものを選べる可能性が高くなる。

いちばんお勧めしたいのは、「今日は鶏肉の日」として国産若どりと銘柄鶏、地鶏のムネ肉・モモ肉を買い求め、ホットプレートなどで焼いて食べ比べをすることだ。そうすれば、価格相応の味わいがあるのか、ムネとモモのどちらのほうに重点がある品種なのかといったことがわかって、とても面白いものなのだ。酉年のこの1年、ぜひおいしい鶏肉を選んでいただきたい。

山本 謙治 農畜産物流通コンサルタント&農と食のジャーナリスト

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やまもと けんじ / Kenji Yamamoto

1971年、愛媛県生まれ埼玉県育ち。学生時代にキャンパス内に畑を開墾し野菜を生産。大学院修士課程卒業後、大手シンクタンクに就職し、畜産関連の調査・コンサルティングに従事。その後、花卉・青果物流通業を経て2004年に(株)グッドテーブルズ設立。農業・畜産分野での商品開発やマーケティングに従事する。その傍ら日本全国の佳い食を取材し、地域の郷土料理や特産物を一般に伝える活動をしている。ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」のほか、『激安食品の落とし穴』(KADOKAWA)、『日本の「食」は安すぎる』(講談社プラスα新書)など著書多数

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