「世界一幸せなデンマーク人」と日本人の違い 働くモチベーションからして全然違う

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――ヒュッゲとは何なのか、正直なところいま一つわかりません。

そんなに複雑なものではなく、実は世界中で行われていることだ。それぞれの国で呼ばれ方が違うだけで。ただ、デンマークの場合は何が違うかというと、彼らはヒュッゲについてずっと話しているんだ。「これはヒュッゲっぽくない」とか「昨日の歯科での体験は非常にヒュッゲだった」とか、とにかく何でもかんでもヒュッゲにしたがる。

――食や旅などについて書いてきたマイケルさんが、北欧人の生き方や幸福感について書こうと思ったきっかけは?

僕が北欧について書こうと思いついたときは、北欧に関する本が欧米にはあまりなく、誰も北欧諸国についてよく知らなかったからだ。が、実際にデンマークに住んでみると、それまで考えていた国とまったく違うことがわかった。

北欧諸国の人はみんなひげを生やしていて、自転車好きで、リサイクルに熱心だと思っていたが、実際はそれぞれの国で大きく違う。歴史や、それぞれの国とのかかわりによって違う個性が生じている。そこで、各国のことについてだけでなく、たとえばフィンランド人はスウェーデン人をこう見ているとか、デンマーク人はスウェーデン人をこう見ているという具合に、お互いの関係性についても書こうと思った。

ここ10年くらいで、ファッションからインテリア、食に至るまで北欧文化が急激に世界中ではやり始めた。さらにその後、欧米メディアが、北欧を完璧なユートピアのような国々だという報道をするようになった。実際は各国とも問題もあるし、闇もあるのに。そこで、そういった側面についても語りたいと思ったんだ。

執筆には4年かかったが、その間、経済学者から人類学者、サンタクロースまで北欧諸国のたくさんの人々に会った。面白かったのは、私はしばしば取材のときに相手に対して批判的になることがあるのだが、それに対する反応が各国で違うこと。いちばん腹を立てるのはノルウェー人で、彼らは同時に非常にきちんとした意見を持った人たちだ。スウェーデン人も意見のある人たちだが、彼らは自分たち自身のことについて自虐的なほど厳しい。反対にデンマーク人は、自分たちのことが大好きだ。彼らは世界でいちばんハッピーな人たちだね。

執筆中に北欧のイメージが激変した

――10年間北欧に住み、本の取材を4年間続ける間に、北欧に対するイメージは変わりましたか。

完全に変わった。最初にデンマークに移住したとき、とんでもない所に来てしまったと思ったが、子どもが生まれてからはデンマークこそが子どもを育てるのに世界で最も適した場所だと考えるようになった。さらに、年を重ねるにつれて、デンマークや北欧のいいところがだんだんわかるようになってきた。

Michael Booth/英国・サセックス生まれ。トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト。日本で14万部超の大ヒット、NHKでアニメ化もされた『英国一家、日本を食べる』の原書、『Sushi & Beyond』で2010年、ギルド・オブ・フードライター賞受賞。現在は妻と2人の息子とデンマークに在住(撮影:梅谷 秀司)

今では、世界の国々が北欧諸国から学べる重要なレッスンはたくさんあると感じている。北欧に学べば、世界は間違いなくもっとよい場所になるだろう。北欧の気候には辟易するし、人々が不機嫌なときもあるし、税金も高いが、そうした点を除けばここでの生活にとても満足している。

――北欧諸国の中で、特に気に入っている国は?

デンマークに住んではいるが、好きなのはフィンランドだ。フィンランドはロシアと欧州の間ということもあるからだろう、いろいろな面でエッジが立っている。フィンランド人のドライなユーモアのセンスも好きだ。日本人に似ていると感じることがある

――どういったところが似ているのでしょう?

たとえば、シンプルで機能性を重視したデザインとか、社会に対する信頼感とか。ちなみに、日本人は社会に対する信頼感が低いともいわれるが、実際はそんなことはない。スターバックスでパソコンを机の上に置いたままトイレに行けるのは日本くらいだ。人が控えめなところも、日本人とフィンランド人の共通点だと思う。そして、フィンランド語と日本語の響きも非常に似たところがあるように感じる。

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