満員電車では中吊り広告の「出番」が大きい 目下のデジタル広告は情報量が少なく力不足

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「スマホのせいで俺たちは」――。

そんな嘆きがあちこちで聞こえる。テレビの視聴率は低迷を続け、本は売れず、雑誌は廃刊休刊ラッシュ。あげくは若者が旅行に行かなくなり、自動車やガムの売り上げが悪くなったのも、スマホでこづかいや余暇を使い切ってしまうせいだという声も出てきた。

しかし、本当にスマホのせいなのか。創ることをやめ、わざとらしい煽りやゴリ押し、番宣、タイアップに皆、疲れ果てている。実際は、スマホやネットの世界こそがさらなる玉石混淆の魔窟なのだが、それでも人々がつい見てしまうのは、そこにはまだ、無意図的空間、打算なき娯楽、自由が存在するような気がするからだ。観たいテレビはなく、読みたい本も見つからず、行きたいところもなく、消去法的にスマホを見ているだけの人は決して少なくない。

紙に意義はある

『鉄道ジャーナル』3月号(1月21日発売)。特集は「私鉄東西対抗」。画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

車窓ほど漠然としておらず、活字を読む楽しさもありながら、見続けることを強要しない車内広告。質の悪い用紙で1週間後には廃品になる運命の週刊誌、その見出しがところ狭しと躍るのは、ペラペラの中吊りこそがふさわしい。ちょっとの嘘とハッタリに、得体の知れぬ真実と小さな正義が見え隠れしている。

午後の空いた列車、中吊り広告の入れ替え作業に思いがけず出くわすことがある。古い紙が外され、新しい紙がスチャッスチャッと職人芸のスピードではまっていく様子を人はじっと見ている。宵闇の路上で撒かれる新聞の号外に通行人が殺到する風景は、50年前とまったく変わらない。

中吊りに明日はある。倦怠極まりない日常の始まりと終わり、うんざりする人波、さらなる閲覧とレスポンスを要求するスマホ、尽きぬ個人的悩み。ふと泳いだ視線の先に中吊りはあってほしい。あらねばならない。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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