満員電車では中吊り広告の「出番」が大きい 目下のデジタル広告は情報量が少なく力不足

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ドア上のデジタル広告(左側)。動画というメリットを生かせば広告価値の可能性は高いが…(撮影:尾形文繁)

朝夕の通勤ラッシュはもちろん、慢性的に混雑している首都圏の列車において、車内広告、とりわけ窓やドア付近に貼られたシールやポスター、中吊りの有用性は測り知れない。まず、集中して目にする人の数がハンパなく、駅構内や街中の看板、ポスターと比較しても、視線の固定滞在時間が極めて長い。また、通勤通学の動線上にある駅ビルや駅ナカ、沿線のイベントやセール情報を俯瞰できる優位性は、そのまま乗降前後の行動に直結する点で広告本来の目的からも優れている。

運よく座れてスマホ用腕載せ台を確保できた人は幸せだが、立っている人が片手にカバン、片手にスマホ状態でずっと画面操作するのはなかなかしんどい。周囲の人に画面を見られるのも嫌だ。だから、ぼーっと立っているしかない。列車が混めば混むほど増えるそういう人々にとって、何の操作もせず眺めていられる車内広告はとてもラクだ。

日本人は活字好き

そして日本では、同乗者がいると、立っているときはもちろん、並んで座れても双方無言で堂々スマホをいじることが少ない。メールや着信確認のためにちらりと見ることはあっても、ゲームやネットで長々スマホいじりをするのは相手に失礼という考えが老若男女問わずまだ多い。そこで、ふと会話が途切れたとき、会話中、目線を泳がせた先に真っ白の壁ではなく広告があるのは助かる。車窓を眺めているより退屈そうに思われることもない。

また、日本人は基本的に活字を読むのが好きである。本を買わなくなった人もネットで活字のページを熱心に読んでいる。中吊りに代わるものとして登場したデジタルサイネージ広告がなかなか浸透しないのは、次々に流して行く必要性から1シーンの情報量が少なく豆知識やひまつぶしのコラムレベルのものが多いことが大きいのではないか。取るに足らぬものを最新技術を駆使しハイテク画面で大仰に流していると言ったら言いすぎかもしれないが、流れているのがスマホにありがちなものばかりなら、スマホを見ているほうがましということになってしまう。

ポスターやシール、中吊りの広告は、眺めたり読んだり、ずっと見ていたり、ちらっと見たり、広告に対峙する自分までもがおなじみの車内風景の一員と化す点で、まず気軽である。そして、「自分が今まで知らなかったこと」、情報として新しいばかりでなく、ネットの海を自力で泳いでいるうちにはなかなか出会う機会のないジャンル、しかもある程度きちんと整え深められた情報に出会える利点もある。これは、車内広告が俯瞰性とデザインに優れ、情報提供にそれなりの計算と工夫と経費が費やされた「作品」であることが大きいかもしれない。

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